2024年3月16日土曜日

蓋を開けるまで量子の状態は確定しないーパソコン椅子探偵ZEBCO「QSS2」編ー

  先週ワシは「他にも、ワシが知らんだけで、瞬間的逆転防止機構が搭載される前の機種で実用性の高いのはあったんだろうと思う。(略)日本じゃあんまり見ないけど、ゼブコとか絶対アメリールらしい実用性の高いのを用意してただろう。」って書いた。書いたら欲しくなって、ワタシ気になります!って感じ。そして買った。という自然でスムーズな流れ。

 アタイ病気が憎いっ!ということでいつものことですが、弁解と説明の機会を与えていただきたくぞんじます。なーに2台輿入れ先も決まってることだし、1台増えてもまだ勝ち越してる(嘘です。記録によると359,660円の赤字)。

 まああれだ、ゼブコのクァンタム(量子)シリーズは一時期バレーヒル扱いで国内にも入ってたので、スピニングなら「クァンタムエナジー」ってのがわりと見かける機種で、ネットオークションにも出てたのでそいつでも良さそうなもんだけど、ハッキリ言ってなんか日本製リールっぽくて面白くない。かつどうも瞬間的逆転防止機構入ってそうでそこそこのお値段してやがる。もっとマイナー味の効いたワシ好みのもあるだろう?って米本国のネットオークションを覗いてみるとZEBCO縛りだとスピニングに限定できないのもあって多すぎて見てらんねぇ、クァンタム縛りでみるとなんかパッとしない感じ。って思ってたらメル○リでクァンタム縛りで調べたら、この「QSS2」というのが1700円(送料別)で出てた。”マグナムドラグシステム”たらいうのも気になったのでスルルのポチチで即ゲット、発送も素早く、届いて速攻決めて分解整備。どんなもんだったか報告させてください。

 で到着して、ハンドル回してみると、まずはやかましい!逆転防止のカリカリ音なんだけど、カリカリ程度の可愛い音でなくカカカカカカカカッーというようなキツツキの高速連打みたいな音がして、ワシ隣でカリカリ音がするタイプのリール使われてもまったく気にしない釣り人っていうか自分でも使ってるけど、このリール隣で使われたらさすがにちょっと「うるせぇ」って思うかも。なんでこんなに喧しいのか理解しかねるけど、分解していけばそのうち明らかになっていくだろう。もいっちょすぐに、ここはイマイチ、と思ったのがスプールが本体に対して小さいことで、せっかくのエッジの立ったゼブコのスプールなのにスプール径が小さいと美点が活かしきれん気がする。ちなみに足の裏に「KOREA」とあり韓国製。

 ということで、まずはいつものようにスプール周りから、といきたいところだけど、マグナムドラグシステムとやらが見たことない機構であり、スプール裏面にデカいのが入ってるようなんだけど、ちょっとお楽しみにとっておいて後で見てみよう。なぜか主軸の横棒にスプール裏に見えてる座面を填める構造なんだけど、そこまでやるならワンタッチ着脱式にすれば良いのにそうはなってないのも不思議な感じ。

 で本体をいじっていくんだけど、まずこのリール、ハンドルはねじ込み式で、かつ、亜鉛一体成形のハンドル軸のギアに直にねじ込んでるんではなくて、ハンドル軸のギアは真鍮の軸を鋳込んだ亜鉛鋳造で、さらにはハンドルの方のネジが、大森方式で同軸状に左右用のネジ山を切ったれいの方式。だだ、韓国大森と微妙にネジの端の処理の癖が違うのは、以前ネタにした「アタック5000」の時と同様で、ゼブコに主にリール収めていたらしい「ソウルフィッシング」社製なのか韓国日吉製とかの日本系なのかその他なのか、相変わらずこのへん80年代の韓国製品は、日本の中小メーカーの技術が混在しつつ継承されている感じで、どこで作ってたのか特定できません迷宮入り。いずれにせよ売りに出てる時点で”ワンタッチ式でなくてハンドルの反対側のキャップが被さってなくて根元と同じ径”だったので、わりとしっかりしたネジ込みハンドルの機種だな、ということがみてとれたのも購入判断の一因。 

 本体樹脂製で、タップビス抜いて蓋を外すと、ギアはいたって普通のローター軸真鍮、ハンドル軸は芯が真鍮の亜鉛鋳造のハイポイドフェースギアで、スプール往復は単純クランク方式。

 ボールベアリングはローター軸に1個だけ。ハンドル軸を受けているのは左右どちらも黒い樹脂製のブッシュで、摩擦に強いポリアセタールかなと思ったけど、なんか本体樹脂と同じような素材に見えなくもない。もともとボールベアリング入れる予定が経費との関係でなしになって、急遽てきとうなブッシュ入れたとかか?いずれにせよ最悪削れても部品交換すればよく、悪くはない。規格品のブッシュやらチョイと加工したら填められるだろう。右写真の白い輪っかは銅かなにかの厚さ調整のシムリング。

 でもって、今回一番の難問が逆転防止周り。

 ハンドル軸のギアを抜くと、その軸にはギア側から、オレンジの矢印で示した爪が2つ出ている消音化カムのような部品、その下のアルミは部品位置決め用と思われるアルミのスリーブのハメ殺し、その下は本体に填まってた軸受けのブッシュとなっていて、消音化部品の爪が、正転時逆転防止の爪の矢印の突起を押して爪を押し上げることによりラチェットから遠ざけて消音化してそうなモノなんだけど、そうはなっていない。なぜなら見やすいように右の写真で拡大したけど、リールフットの基部から伸びているバネが、わりとしっかり逆転防止の爪の下の方を引っ張って、爪をラチェットに押し当てているので、消音化カムのギアの回転からちょっと借りてきたぐらいの力ではまったく爪がラチェットから離れないようだ。この辺は後ほど調整できるか試してみるとして、とりあえず分解整備を進める。

 ローター周りを見ていくと、まずはボールベアリングとローター軸のギアを押さえている金具が独特。4つ穴が開いてて2つが本体の出っ張りに填まって、2つがネジ穴になってる。ベール反転の蹴飛ばしは、上下に動くレバーが本体の坂を登る方式で、シルスター「CX60」で見た形式。で、樹脂製のローターにベールアームやらをとめるのには金属のビスをEクリップでとめるダイワの「ウィスカートーナメントSS」とかでも使われていた、樹脂で回転部分を受けない丈夫な設計で、このへんはしっかりしていると感じるところ。
 でもって、スピニング熱患者なら「オオッ!」と盛り上がるのがラインローラーで、真鍮クロームメッキのどうということのないローラーなんだけど、バラしてみると、ちゃんと樹脂製スリーブ入りです。大森や日吉といった韓国に生産を移していった日本の中小メーカーの良き伝統を韓国メーカーが受け継いでるなと感心。白い素材だけどジュラコンとかのポリアセタールっぽいツルツルした素材でローラーの回転も滑らかで良い感じである。

 ヨシッ!あと残ってるのは、楽しみにとっておいたドラグ周り!って言ってもそんなにややこしいモノではなかった。
 写真上の左の方から、スプールやらドラグやらが填まる台座、でその上にまず鋳造の台座では平面が出し切れないからか、台座と同期して回らないステンレスの小判穴ワッシャー、その上に大口径のテフロンワッシャーがきて、スプール底面とで挟む。でスプール上部にはまた小さめのテフロンワッシャーが来て、その上に3枚も台座と同期する小判穴ワッシャーが来るけど、3枚必要な理由はよくわからない。1枚は横から板バネ状に立ち上がっててドラグノブを挟む形でクリッカーの役目をしている。最後は台座の頭にCクリップ止め。ドラグノブは普通にバネ入りの樹脂製。最初の方でも書いたけど、なぜ台座まで作っておきながらワンタッチ交換式にしなかったのかは謎設計。このころワンタッチって流行っとらんかったとかか?なんにしろドラグをスプールの下を使って直径大きいドラグパッドを入れるってのは80年代のリールらしいこのあたりから既にあるって話。スプール下を使うの自体は、構造考えたらあたりまえだけど、PENN「スピンフィッシャー700」でもみられたように最初っからあるといえばある。あと、ドラグ作動時の音出しは台座裏に入ってて、スプールの裏に一瞬”マルチポイントストッパー”かと間違うような凸凹が切ってあるけど、ドラグの音出し用で、音出しの部品が大森式でバネで根元側を挟むれいの方式、といえば大森沼の住人には分かると思うけど、大森の影響はこのあたりにも見てとれる。ドラグの作動は手で回した感じでは上出来の部類かと。

 全バラし終了で、部品数はそんなに多くなく整備性は悪くない。樹脂製で錆びるところも少ないし、逆転防止とかも本体内なので耐海水性能も悪くない気がする。
 樹脂製スリーブ入りラインローラーや、丈夫なネジ込みハンドル、回転部を樹脂でなるべく受けない設計とかも良い感じなんだけど、あちこち惜しい点も散見される。既に書いたとおり、糸巻き量4lb/100m、173gの小型機のわりには、本体が大きく、次のサイズと本体共有とかならこの「2」サイズより「3」のほうがしっくりきそう。あと喧しいカリカリ音。

 消音化ぐらいはなんとかならんのかと、グリスアップしつついじくってはみた。
 消音化のカムの上の写真で矢印で示した2本の爪のあいだに、下の写真の逆転防止の爪のネジの脇の突起を入れて、正回転時に矢印の方向に力がかかって、爪がラチェットから離れるという仕組みのはずである。
 でもまったく爪が上がってる感じがしない。もっと消音カムの摩擦力を上げてみるかと、グリスぬぐって割らない程度にカムを締めてキツく軸に填まるようにしてもどうにもなってない。
 あれこれ過去事例と比較して考えていると、これ本来はバネ無しで正転時は爪がラチェットから離れて、逆転時に爪をラチェットに押しつけるという、スズミ「マクセル700RD」と同様の方式なんじゃないかと思いあたる。構造自体は似ている。というわけでバネ外してみたけど全く機能せず、ストッパーは気まぐれに掛かるときがある程度で不安定で役立たず状態。何でだろ?と「ここを下から押せば爪が上がるはずなのに」と矢印のあたりをペンチの先で押してみて分かった。この形状だと引っかかりがなくて押しても爪がラチェットから離れる方向にはなかなか動かない。斜めじゃなくてしっかり引っかかるように充分な長さで真っ直ぐ出っ張ってないとダメなはずである。そう思うと、なんで、取り付けるのも面倒な脚の根元にバネをネジ留めしているのかも推理できる。これ、最初”バネ無し消音仕様”のつもりで設計したんだけど、上手くいかなかったので無理くりバネでラチェットに爪を押し当てる方式にしてごまかしたんだろう。鉄系の板の打ち抜きってそんなに手間かかるのだろうか?手直しすりゃ良いのにと思うけど、実は手直しした版もあって、ひょっとしてこの個体はダメ出しされた版でゼブコに納められなかったのを、日本に流したバッタモンという可能性もあるのかも。というのはこの個体、ハンドル反対側のキャップに新品の時の透明なシールがまだ付いてて使用した痕跡がない。にもかかわらず箱入りではなかったので、そういう可能性もあるのではないかと推理した。「米国から買ったのは問題無く消音化されてましたよ」等どなたか真相を知ってる方がいたら是非タレコミよろしく。 

 しかたないので、せめてけたたましいラチェット音をどうにかするべくバネをなるべく緩く伸ばして多少おとなしくさせて、今回樹脂本体の小型機でありグリス使用量は少ないので高級なPENN純正グリスを奢って整備終了。回転具合が分かりやすいように逆転防止OFFにして回してみると、これが回転は良いのよ、ローターのバランスも良く素直な滑らかさ。ベール反転も軽いし基本性能しっかりしてて、このころの韓国メーカーがなかなかの力を持ってたのがうかがえるところ。ただ、まだスピニングのなんたるかは全然わかっちょらんかったんだろうな。今でも日本のメーカーも分かってないぐらいで仕方ないけどさ。ということで実に惜しい感じの1台でありました。

 まああれだ、仕事でちょっと関係あった人達をみての感想だけど、韓国の人って失敗しても「いいじゃんこれで」って開き直る傾向にあるようには思う。ケンチャナヨ精神って呼ばれるらしいけど、”なるようになる大丈夫”とかそういうノリらしい。設計どおりの消音化仕様じゃないけど、バネ付けて釣りできるようにしたから大丈夫。って開き直られると発注元は頭痛いだろうな。ワシ、別にだから日本はエラいとか言うつもりはなくて、日本だと「仕様で正確に設計まで指定していなかった御社の責任もあるかと存じます。」って責任のなすりつけとか、発注元にゴネることまではさすがに少ないと信じたいけど、社内でやれ営業がデキもせん仕様で受けやがって、とか技術屋が設計ミスったのは誰が責任とるんだとか、生産性のない内輪もめで問題延々先送りってのが定番だろう。心当たりあるよね?どっちが良いって話じゃなくて違いがあるよって話で”みんなちがって、みんなダメ。”っていう逆みすず状態がこの世の常、そういう違いが、作り出すモノにも結構影響出るのかなと思ったりもする。日本製品のどうでも良いところへの異様なまでの細かいこだわりとか、右へならへの無個性さとかまさに国民性が出てる気がする。それがウケる場合もあれば、不利になる場合もあるので良いんだか悪いんだか。どっちもあるんだろう。っていうなかで今回の韓国製ゼブコは米国の実用主義と韓国のケンチャナヨ精神が出会って止揚した結果、微妙にズレてあと一歩な仕上がりになっております。ってのもまあ趣があるっちゃあるよね。何にせよ楽しめました。

 ゼブコ「クァンタムエナジー」さえメジャーに思えるようなマイナースピニングの記事が読めるのは「ナマジのブログ」だけ。と、80年代少年ジャンプ枠横煽り風に締めて、それではまた来週。

2024年3月9日土曜日

僕が考えた最強の大森タックルオート

 最近釣友が、職場の釣り好きに誘われたのがきっかけとかで、貸しボートでのカマス・アジ釣りにハマっている。昔使ってた魚探引っ張り出して、ボート用の台座自作して取り付けたり、アジの時合いにはアジ釣りマシーンと化して釣ってたり、なかなかに楽しんでいるようだ。で、その時に狭いボートの上で竿先に絡んだ道糸をほどこうとしてたら、反対側のリールが誤ってチャポンと海水に浸かってしまったらしい。一瞬チャポン程度ではどうっちゅうことないだろうという楽観視を尻目に、しばらくしたら中でジャリジャリとした感触が生じ始めた。

 「ほんの一瞬浸かっただけやで」と嘆こうが、覆水盆に返らずっていうか、今時のスピニングリールにおける諸悪の根源”瞬間的逆転機構”がろくな防水機構もなくローターの下に入れてあったら、一瞬ドボンなどもってのほか、水道ジャバジャバ水洗いなんてとんでもない、雨降っても、波かぶっても、あんなところ防水してなければ無防備状態で、しつこく書くけど水辺で使う道具なのに、水かぶった程度で不具合が生じかねない。雨が降ったら釣りに行かず、小さなミスも犯さない、リールを水中に落っことしたり、自分がコケてリール水没させたりしない人間用なのであろうか?ワシャそんなん自分がコケて肋ヒビ入らしているぐらいで、とても上手にあつかわんわい。

 釣友も「別にご大層なリールが欲しいわけじゃなくて、それ買ったら面倒がなくそれっきりで良いのってどれよ?」とぼやくわけである。彼の所持するリールにはそういう良いリールがあるにはあるけど、若き日の相棒であり、もうおいそれとは出したくないらしく、次買うときに同じような面倒な機種はウンザリだということらしい。

 手っ取り早くいくなら、大手の1万円ぐらいからの大衆機で、瞬間的逆転防止機構にガッチリ防水機構が付いているのを買うという選択。整備性は良くないけどラインローラーとかの外回りだけ気をつけてやればよさげ。あとはメーカーメンテ。

 中古で探すなら、そういう耐海水性能で強いのはPENN、整備性が良いので面倒臭くないのが大森、という感じだけど、ボートでアジやらカマスやらを狙う小型リールでとなると、PENNはちょっと弾数少なくかつお高い。大手の大衆機よりヘタすると高くつく。大森No.1サイズはボロければ値段安いし、見た目ボロくても整備すれば機能はなんら問題ないことがほとんど。ということで、どうせわが家で出番もなしに蔵に在庫しているだけなら、使ってもらった方が道具として正しい有り様である。ということで「余らしてる大森でよかったら使えるようにして進呈するよ」ということになった。

 ちょうど、TAKE先生が「コメットG1」の逆転防止の消音化部品を売りに出したところであり、コメットはタックルオートをインスプール化したような機種でハンドル軸のギアとか設計に共通点が多く、件の消音化部品も「タックルオートNo.1」にも適合するとのことで、そのあたりも組み込んで、ワシが考え得る現時点での最強の「タックルオートNo.1」に仕上げて引き渡したい、ということになった。なったんだけど、他に良いリールはないかと、自分が使うのを想定して「面倒臭くなくて優秀なアウトスプールの小型スピニング」にはどんなのがあるか、ってのをちょっと数え上げて考えてみた。

 まずPENN勢は「430ss」「4300ss」「430ssg」あたりだろう。前2者はベールスプリングを折れたら交換する必要があるっていうほかに、欠点と言わなければならんほどの不具合はない。ただ、さっきも書いたように弾数少なく値段高いのでおいそれとは買えん。430ssgは瞬間的逆転防止機構搭載なんだけど、油グッチャリの湿式で使えるので浸水しても平気ではある。ただ寒いとグリスの粘度が上がって逆転してしまったりする。逆転防止機構を一方通行のベアリング一個に任せて単純に仕上げてるのは整備性良くて良いんだけど、欠点もある。弾数少ないのは一緒。

 お次、大森製作所なら「マイクロセブンC1」「キャリアーNo.1」「マイコン301TB」「タックルオートNo.1」「タックルNo.1」あたりか、正直海水での実用性では本体樹脂製の「マイクロセブンC1」がもってこいな気がする。けど、現在使用中の機種であり今回の選からは惜しくも外した。キャリアーも樹脂製だけど人気機種なので値段が高い。「マイコン301TB」も良いリールだけどリアドラグのツマミの隙間から浸水してドラグの調整幅出すバネが錆びがちなのでその点やや注意必要。値段という点では「タックルオートNo.1」「タックルNo.1」はクソ安い。ボロいと2千円しないことが多い。消音化パーツが出たことで「タックルオートNo.1」は若干注目が上がって値もあがるかもだけど、「タックルNo.1」など左巻のネジが失われてることが多いのが難点だけどゴミのような値段で買えるし、じっさい買って今年使用予定で整備済み。ということで、今期も今後も使用予定がなく、大森らしい軽くベールが返る内蹴り機構と簡易ローターブレーキを楽しんでもらうにも「タックルオートNo.1」が最適な機種だろうと考えた。チョイボロすぎる個体をスペアスプール要員兼部品取り個体として抱き合わせてセットで、片方をカリッカリの実戦対応モデルに仕上げて進呈しよう。いじるのは消音化はオマケで、大森スピニング最大の欠点とされる”なで肩のスプールエッジ”、”スプール往復幅より広い糸巻き幅”をレイの方法でアレしてやる。

 と方針は決まったんだけど、この際他にも実用性の高い機種ってあるか?とアレコレ考えてみた。

 ABU「カーディナルC3」は合格だろう。ドラグ含め濡れたら困る機構は本体内に収めてある。アキレス腱のベールスプリングも長寿命ベールスプリングを組み込めばだいぶ戦えるはず。ダイワ「ウィスカートーナメントSS」は、かなり良い、ルアー用小型スピニングに初めてロングスプールを採用、まだこの時代は瞬間的逆転防止機構が搭載されておらず、ラインローラーにもベアリングは入ってない。650サイズのベールスプリングは普通のトーションバネだけど、750サイズから上になると耐久性の高いグルグルコイルバネが採用されていて「樹脂ボディーの瞬間逆転防止機構の搭載される直前の機種が実用性が高い」というワシの持論に合致している。バラしにくく整備性はイマイチってことぐらいしか欠点が思いつかない。ラインを端まで巻くとドバッとまとまって出てしまうトラブルが多いらしいけど、糸巻き量減らすことで対応可能。渓流で使ってたけど気持ちよく使えていた。ダイワがトーナメントSSならシマノは「92’ツインパワー2000」が瞬間的逆転防止機構が付く前の樹脂本体機でマルチポイントストッパー方式。分解整備しただけで使ったことないけどこれは良い気がする。ベールスプリングがコイルグルグルなのはポイント高い。リョービ「サイノスXS1000ZM-T」も2000番の同型機をいじった程度だけど、マルチポイントストッパーでベールスプリングがコイルグルグル、ラインローラーに無駄にボールベアリングが入っておらず、やや樹脂で回転部を受ける構造が多いのが耐久性的にどうかと思うけど、まあそれなりに持つんだろうとは思うと上出来。で、ルー(韓国日吉)「ゴールドスピン」は使ったら良かったので、弾が少ないので入手はやや難しいけど実用性高いアウトスプールスピニングとなれば出しておかねばという感じ。他にも、ワシが知らんだけで、瞬間的逆転防止機構が搭載される前の機種で実用性の高いのはあったんだろうと思う。オリムのその時代の機種は触ったことないけど何かあったんだろうし、日本じゃあんまり見ないけど、ゼブコとか絶対アメリールらしい実用性の高いのを用意してただろう。そして、そういうのを下請けしてた韓国、中国製のリールでも丁寧に拾っていけば良いのはあるかも。

 というときに、自分が評価する項目として、重要な項目から書き連ねると「瞬間的逆転防止機構が付いていない」「整備性の良い単純設計」「必要充分な耐久性」「まともなドラグ」「適正な幅のスプール」「適正な形状のスプールエッジ」「ラインローラーにはボールベアリングではなく樹脂製スリーブ」「回転部を受ける工夫」「ベールスプリングはグルグルコイル」「本体樹脂製」「ハンドルはワンタッチ折り畳み不採用、取り付け方法はねじ込み式が望ましいが共回りも可」「ハンドルノブが長時間使ってても指が痛くならない形状」「ローターブレーキ採用」「指がスプールエッジに届く設計」あたりを評価基準にしている。いるけど、いじくってどうにかしてしまえる、あるいは外法で対応可能なら欠点は補完できると思う。 

 ということで、本題の「タックルオートNo.1」の改善に取り組んでいこう。タックルオートNo.1を上の評価項目で評価すると、「適正な幅のスプール」「適正な形状のスプールエッジ」「ベールスプリングはグルグルコイル」「本体樹脂製」「ハンドルノブが長時間使ってても指が痛くならない形状」以外は問題なしである。つまりこの5項目のうち対応可能なものに手を付けようという方針。ベールスプリングはグルグルコイル式に改造できないか考えたことはあるけどなかなか難しい。むしろトーション式のベールスプリングの自作で対応する方が簡単なので、まあ定期的に交換か予備を用意しておくことで対応してもらおう。本体樹脂製じゃないけど、整備性の良さと逆転防止機構まで本体内に入れた、ある程度防水性がある設計でカバーできるので耐海水、耐腐蝕的には充分対応可能だと思う。釣りから帰ったらジャブジャブ洗って、から拭き乾燥。たまにラインローラー、ハンドルノブ、スプール外して主軸の根元に注油程度で問題生じないはず。ハンドルノブの形状については、一概にこれが良いという話ではなくて、釣り手のツマミ方、握り方、手の形大きさで変わってくるので、なんとも言えんところで、ワシは大森の三角パドル型は摘まみやすいし痛くなってこないので好きである。一応マイクロセブンCシリーズのウッドノブ型と2つ用意して使いやすい方をという選択方式にする。で、のこった「適正な幅のスプール」「適正な形状のスプールエッジ」についてはれいによってFRPの板を使って、スプールエッジの形状等調整をやってしまうという方針。あとせっかくなので消音化部品も組み込む。

 まずはだいぶ慣れてきた感のあるスプールエッジの形状等調整。No.1サイズの場合、スプールの幅が約13ミリにたいしてスプール上下幅は約11ミリなので、11ミリの高さの厚紙の下駄を履かせて、填まるように切り出したFRP、8ミリの板をズレないように填めておいて、隙間にティッシュの紙縒りをクルッと入れて瞬間接着剤を染みこませて、その上にさらに紙縒りを重ねてまた瞬間接着剤。という感じで大まかな形状を整える。その上でハンドドリルに填めてエッジの面取りをしてティッシュも削ってある程度滑らかにしたうえで、エポキシで隙間とか窪みを埋めつつロッド回しに刺してコーティング。固まったら銀色のラッカー塗料でヌリヌリで完成。

 でもって、消音化部品の組み込み。消音化部品は樹脂製で出るかと思ったけど、樹脂製だと温度差とかで作動が安定しないとかで、バネ的部品でハンドル軸の回転を拾ってそれを、金属製のカムに伝えてカムの隙間にストッパーの爪を入れて正回転時にラチェットから遠ざけるという仕組み。チョイ面倒だけど金属製なのは丈夫そうで悪くない。

 写真上左が元のストッパーで矢印の位置に爪がない。で外して消音化部品と並べたのが写真上右、右の爪付きのストッパーに交換して、ワッシャーで高さ調整の後、写真下左のように金属製カムを隙間でストッパーの爪をはさむように設置。チョイ見づらいけど写真下右のようにハンドル軸のギアの軸にバネ的部品を填めて、その出っ張って曲げてある部分を金属製カムの隙間の反対側の凹部に填めてやるという手順。そんなに難しくなく、想定していないだろうぐらいにグリスグッチャリなので滑りすぎると上手くいかんのでバネ締め直しとか調整必要かと思ったけど、一発で決まって問題なく機能してくれた。

 カリカリ鳴るの嫌いじゃないけど、たしかにラチェットに当たるごとに抵抗は発生しているわけで、ラチェットに当たらず音が鳴らないようにしてみると、ボールベアリング一個しか使ってない、でもハンドル軸をアルミの本体で直受けにしたりせず真鍮スリーブを入れているという、丁寧な仕事ぶりが光る大森スピニングの真骨頂的な滑らかな回転が味わえる。さすがの大森ハイポイドフェースギア。回転の滑らかさとか、わりとどうでも良いとワシ思ってるにしても、これはこれでたしかに良いものだと思わされた。そりゃ今時の高級スピニング様はもっと滑らかに回るのかもしれん。しれんけど、そのためにどんだけボールベアリング突っ込んで面倒くせえことになってるのかって話。実用上充分以上に滑らかな回転をボールベアリングたったの一個でやっつけている、同時代のボールベアリング2個入りのオートベールと比べても下位機種なのにこの仕上がり。無駄が無くスッキリしてて良いリールだなと改めて思うのよ。って感じでいっちょあがりが下の個体。スプール調整済み、消音化部品組み込み済み。グリスグッチャリ整備済み、ハンドルは純正のまま。対して上がローターが一部欠けてたようなボロ個体で整備済みではあるけどやや回転の滑らかさとか損なわれている。スプールはそのまま(可能ならどちらも試して比較してもらいたいところ、その後追加でスプール形状調整も承ります)。ハンドルはマイクロセブンCSのを付けてあるので、どちらかお好みのを付けて使ってください、どちらにも付けられます、という感じ。結局、リール改造用の部品とか各種売ってるけど、買って価値あるのはスプールとハンドルぐらいで、あとはだいたいにおいて自己満足程度かなと思っている。スプールは同じ替えスプール買うだけでそのリールの戦闘能力が格段に向上するし、形状やら糸巻き量の適正化やらいじれる要素も大きく、スピニングの飛距離とかトラブルの少なさとかスプール上下の方式とかも関係してくるけど、大きくはスプールの形状で決まる話で、ベアリングの数増やして空回ししたときクルックル回るようになったところで戦闘能力はあがらんのでそれは無駄な金の使い方だと思うし、そんなもんよりスプールに金かけろだろ。そしてハンドルはノブの形状とかが手に合わん痛くなってくるヤツだとつらいモノがあるので大事。見た目より何より使ってて痛くなってこないのが良いハンドル。こればっかりは使ってみないと分からん。

 なんにせよ、基本設計がしっかりしている機種に不足している機能を足していく、あるいは必要な調整を施すのは比較的容易に対応可能。でも基本設計に”瞬間的逆転防止機構”なんていうクソがデデンと鎮座していると、防水性とセットでそこは外せないのでどうにもならん。スピニング作ってる各社は早く外せっての。

 とはいえ、しばらくは瞬間的逆転防止機構の流行はおさまらないんだろうから、ワシそういうのはクソだとネットの片隅で叫び、レジスタンス運動に身を投じつつ、クソが鎮座していない時代のスピニングを愛でていきたい。

 てなことやってたら、大森熱がぶり返して「大森スピニングが整備したい!」ってアタイ苦しかったの。でもご安心くだされ。わが家には整備待ちの大森スピニングぐらいたーんとござる。

 ブッコミ泳がせに使ってる「マイコン202」が調子よくてずいぶん気に入ったんだけど、そうなると替えスプールが欲しいなという症状が出てきて、すると出てくるんですね中古市場にポロポロッとボロ個体が2台、2台とも競りもせず確保。まだマシな方を整備して剥げてた塗装もお化粧直しして、すでに現場投入済み。そして、ワシが整備してやらねば燃えないゴミになりそうなジャンクな「マイクロセブンNo.1」のグリーニーな個体。ハンドル後方の左右交換用のネジ入れに格納されていた左用のハンドルネジが赤さびまみれになっていて泣きそうになったけど、ダイヤモンドヤスリでネジ山を復活させてなんとか使用可能な状態に復帰。てな感じに今期も楽しく大森沼にズブズブと潜っております。皆様もご自愛くださいませ。アタイ病気が憎いっ!

2024年3月8日金曜日

鳥山先生、あなたがナンバーワンだ!

 ドラゴンボールの作者である、なんて前置きする必要もないぐらいのマンガ家、鳥山明先生が、3月1日急性硬膜下血腫により亡くなられたとの訃報が・・・・68歳とのことで世界中で愛された作品の生みの親の若すぎる死に衝撃が走っている。ドラゴンボールも凄いけど、なにげにゲームの「ドラゴンクエスト」のキャラクターデザインとか後生に与えた影響はすざまじく、多分いま”スライム”と言って皆が水饅頭みたいな可愛いキャラクターを頭に思い浮かべるのは、鳥山先生の功績に他ならないと思う。 

 「ドクタースランプ」も「ドラゴンボール」もジャンプ掲載時にワクワクしながら読んでいた直撃世代としては、感謝を込めて安らかにお眠りくださいとお祈りするしかない。

 よく、ネットではマンガ家で”画力”が高いのは誰かという議論がなされる。書き込みの多い緻密な絵を描く三浦建太郎先生や森薫先生が候補としてよく上がってくるけど「マンガ表現としての画力というのは、単に絵が上手いだけではなく、マンガとしての動きや物語を表現しうる能力というのも重要ではないか?」という疑義が呈され、そうなってくると俄然、それなら鳥山明先生が一番だと推す声が大きくなる。私もそれに一票投じたい。

 アメリカのカートゥーンみたいなコミカルな表情変化から、戦闘シーンの迫力のある動きや衝撃の大きさまで描ききる力量。これをマンガ家の画力といわずして何という。

 ドラゴンボールはキンドル版でも読み直したけど、今読んでもまったく古びてないどころか、夢中になって読むことができた。これからも世界中で先生の生み出した作品やキャラクター達は愛され続けるだろう。

 鳥山先生、楽しい時をありがとうございました。

2024年3月2日土曜日

スピンフィッシャーはこのあたりから始まる

 最初のスピンフィッシャーである「 スピンフィッシャー700」はミスティックさんところでみると、前回の704等と同じく1966年発売となっているけど、これから書くようなモロモロ勘案すると、ORCA(オールドリールコレクターズアソシエーション)で識者が書き込んでいるように1963年カタログ掲載(≓発売)と見て良さそうだ。スピンフィッシャーに詳しいマニア氏の英語サイトがあったんだけど、ブックマークしてあったけど既に閉鎖されているようで残念(いまどき個人管理のウェブサイトなんて絶滅危惧種だな)。ORCAでも写真が上げられているけど、最初のモデルはハンドルがわが家のと形状が違いクルッと反転できないタイプ。わが家のは例の”謎のデカアメリール&マイナー大森大放出祭り!”で入手したものだけど、ハンドルは704と同じ仕様である。同時期に製造された個体だろうなと想像できる。それでも60年代中盤からから70年代始めのリールである。初期モデルでなくても半世紀は前の個体で充分に歴史を感じさせてくれるなかなかの品である。PENN好きとしては1台ぐらい持ってても良いなと思って気合い入れて入札して意外と値段釣り上がらず6600円(送料別)で落札。イイ買い物だったんじゃなかろうか。それにしてもORCAで話題に上がってるマイクC氏の「PENNの本」が読んでみたい。っていうかあっちのコレクターの自費出版本とか手に入れるにはどうすりゃ良いんじゃ?まあ手に入れても自動翻訳かけられるデータ形式じゃないと読めンけどな。船上のガイドさんの英語とかわりと分かる”洋上英会話”がそれなりにできる方なので、釣りの話なら読めるだろうと「トラウト・バム」が面白かったジョン・ギーラック氏のKinndle版「フールズパラダイス」の英語のを買ったけど読めんかった。東氏ギーラック本もっと翻訳してくださいプリーズ。

 まあ、枕はこのくらいにしていつものように分解整備。いつものようにスプール周りから。
 最初っからスプールを乗っける台座の上には真鍮で太らせたドラグ部を受ける部品が乗っていて、かつスプールの方にも真鍮スリーブが入っててアルミ直受けではないっていうところが、栴檀は双葉より芳しな感じである。
 でドラグなんだけど、ドラグノブにはバネが入っていてそれなりに調整幅も出ている。700では3階建てではなくて1階建ての単純なドラグ構成になっているけど、そこそこの効き具合と滑らかさで存外悪くない。ドラグパッドは704にも使われていた、樹脂に繊維を混ぜて固めたような謎素材なんだけど、意外に重要なのはスプール裏面と座面に入ってるワッシャーだと思う。今時のリールなら3階建てのドラグの仕事を邪魔しないように直径小さめで滑りの良いテフロンのワッシャー入れてるかアホみたいにベアリング入れてるかだろうけど、当然ながらドラグ全体の”効き”としてはこのスプールの下のパッド等の摩擦力って含まれてきて、昔の日本製リールにここに摩擦力の大きなファイバーワッシャーが入ってるのは、ギッチリ締まらないとクレームが来るような“投げ釣り”偏重の我が国釣り具市場の要望にあわせて全体として締まりを良くしていたんじゃないかと思っている。でもって、この700のスプール座面には上の写真でも分かるように結構大きめの直径のが入っててスプール裏側にもそれを受ける面を設けてある。ちなみに材質は皮。スプール座面のワッシャーの直径を大きくしてドラグとして機能させるのは後の9500ssにも繫がるようなそうでもないような。ともかく単純な設計ながら割と良い塩梅のドラグになってるのはさすがPENN、”さすペン”という感じ。

 本体蓋パカッと開けると、まあここはもう700番台インスプールではお馴染みのステン芯真鍮のハンドル軸ギアにステンのローター軸ギア、単純クランク方式にハンドル軸ギアの裏にラチェットがあって、そこに掛ける逆転防止機構。以前の持ち主は良く分かってらっしゃった感じでグリスグッチャリ。とここまではいいんだけど、ちょっと危なかったのがグリーニーな塗装。ちょっといつもと塗料が違う感じなので念のためと、パーツクリーナーかけるまえにスプール裏面を試しにとティッシュにパーツクリーナー液付けて拭いてみたら、写真の様に塗料溶けてきやがる。ダイナミックで失敗しておいて良かった。ダイワの作ったパチモンとではさすがにワシの中での重要性は月とすっぽんである。ということで今回グリーニーな本体やらスプールやらはパーツクリーナーではなくCRC666ぶっかけてティッシュで拭き拭きして古いグリスとかをぬぐい落として作業を進めた。

 でもって、700の写真とか見る度にローターが下の方だけグリーニーカラーじゃなくて金属剥き出しなのはなんでじゃろ?と疑問に思っていた。海外オークションサイトとかで見てると、同じ色で下まで塗られている個体とかもあるので、初期の頃はアルミ鋳造一体成形では強度が出せないので、下部だけステンとかの丈夫なのにして継いでるとかか?と想像していた。704のローターにこれでもかというぐらい梁が入れられて強化されているのを見てその思いは強まってたんだけど、バラしてみたら大ハズれ。なんのことはないローターが円筒形で、色の違う下のカップ部はボールベアリングとローター軸のギアを押さえているリングと一体のもので、ついでにこのカップを本体に止めているネジの一つが大きく凸ってて、ベール反転レバーの蹴飛ばしを兼ねている。初めて見る面白い設計。ちなみにベール反転機構はベールアームと反対側に入ってて重量分散されてるのは後のスピンフィッシャーに引き継がれていく方式。多分だけど後の時代の700には704みたいにカップまで一体成形のもあったんだと思う。

 ベール周りに移っていくと、ラインローラーは灰色の素材がちょっと分からんモノなんだけど回転式で軸には油溝が切ってある。色的には酸化アルミ系のセラミックに見えるけどこの時代そんな素材あったのか疑問。
 ちょっと重めの質感からいってタングステンかなと思うんだけど、横から見るとなんかスリーブを填め込んだような段差が見て取れて、そのへんも謎なんだけどまあわからんもんはわからんわい。

 ちょっと小ネタで面白かったのが、このリール、ボールベアリング一個使ってて、片面シールのステンレス製なんだけど「Maid in USA」でこの手の細かいボールベアリングって北欧やアジアあたりで作ってたんだと思ってたけど、米国製のもあったのね。って意外だった。でも今ググったらミニチュアベアリングの世界シェアは一位ミネベア(日本)、二位SKF(スウェーデン)、三位RBC(米国)と米国製ワシが知らんだけだった模様、そら工業国だしあたりまえか。そのわりにリールに入ってるのみかけんけど無印のは米国製だったりするんだろうか?米国製は誇らしく「Maid in USA」って入れるよね?

 ベールアームのブチ当たるところのストッパーが、キノコ型のゴムをバネで補強したような代物なんだけど、残念ながら経年劣化か割れ始めている。ぶっといナイロンショックリーダーと適当なスリーブとかで新しくこさえても良いんだけど、このリールは使用の予定はなく、なるべく元の状態を維持したい。仕方ないのでセメダインスーパーXで固めておくんだけど、右の写真なにやってるのかというと接着面を圧着するのに輪ゴムを使ったんだけど、輪ゴムそのまま使うと当然はみ出した接着剤で輪ゴムもくっついてしまう。なのでスーパーXの取説読んで接着できない素材となっているポリエチレンの袋の切れっ端をはさんで固定して接着。という接着剤の使い方の細かい技です。接着剤を使う時、そいつが何と何をくっつけるのかを知ってるべきなのは当然として、何と何がくっつけられないのかを知ってると意外に応用が効きます。

 てな感じで、独特だけど単純な設計でサクサク分解終了でCRCかけて拭き拭き、金属部品はパーツクリーナーでピカピカに、仕上げはいつものようにグリスグッチャリであと50年は良い状態で保存可能かなとおもっちょります。

 使って使えないリールではなく、実釣能力は充分あると思うけど、使わず保管という選択になったのは、一つには歴史的な資料価値のある1台だと思うっていうのと、もう一つにはぶっちゃけ704と使い分けどころがないのと違うか?っていうところ。
 700の糸巻き量は250y/20lbで番手的に704より小さいんだと思ってたけど704zが前回も書いたけど235y/20lb(ついでに6500ssが220y/20lb)とやや700のほうが大きいぐらいで、700番台については下二桁が10以上のが700より小型、一桁が大型と思ってたけどどうも違うようである。一番下の写真見れば分かるように700、740,6500ssはだいたいサイズ感一緒である。
 てなことや、設計が704に比べると詰め切ってない感じ、発売年が他の700番台より先ということを考えると、700は先行試作版的な意味もある、エヴァンゲリオンでいうところの零号機で、704やら714の改良が加えられたグリーニーな後発機がある意味完成形の初号機、Zの時代が我々がスピンフッシャーと聞いて想像する黒金になった本物のスピンフィッシャーで2号機、3桁が色目的には黒だけどちょい縁起悪いなな3号機、4桁が米国で(人気)爆発した4号機ってところか?例えると余計わけ分からんけど、とにかく700はPENNらしい海を想定した大型機の系譜の始祖にして、基本的な構造は整ったものの、ドラグやラインローラー、ローター形状等に改良の余地のあるプロトタイプ的な機種だったんだろうなと思いましたとさ。最初の機種がこの大きさってところが”さすぺン”。

 スピンフィッシャーは最初からスピンフィッシャーそのものだったけど、歴史を見ていくと、何度も書くけど少しずつ改良を加えられて進化していったんだなと、改めてその長い歴史に敬意を抱くところである。

2024年2月24日土曜日

PENNにあるまじき凝ったスピニング「スピンフィッシャー704」

  昨年の某中古釣り具買い取り大手による”謎のデカアメリール&マイナー大森大放出祭り!”でナブラに突っ込んでしまい、狂乱索餌状態で購入したモノの、ちょっと時間が経って冷静になると、使うあてがあるでなし、大型機は売りに出しても値がつかんしで、7392円(送料別)はやり過ぎだったなと、やや反省して後悔もしていた。

 しかし、今回分解整備してみて、まったく7392円(送料別)は安かったと心の底から思って、ちょっと興奮を抑えきれない。この手の大型インスプール機が米国の釣り人、特に東海岸のストライパー野郎どもに人気なのは知ってたし、ベールワイヤーのないマニュアルピックアップ機の706zとフルベール機の今回のブツである704の後継機704zが2020年前後とかの最近にも復刻版が出てるぐらいに支持されているのも知ってはいた。いたけど706zは持ってるので、あんな感じの単純で壊れる部品が少ないところが共通の魅力なんだろうぐらいに思ってた。しかしながら、いざ分解整備してみると意外にあれこれと凝った設計で整備には思ったより時間がかかったんだけど、その凝った設計で奢られている機能は、今日の我が国大手製スピニングがやっと取り入れて追いついたぐらいの有用な機構で逆にいらんものは付いてなくて驚くほど完成度が高いと唸らされる。704の登場は1966年となっていて60年代のスピニングでっせ。今時のエラそうなスピニングがそこから何が進化したっていうのか?いらんもんが付いて蛇足状態で退化しかしてないんじゃないの?そのあたりを、ボチボチと分解の様子を報告しつつ説明していきたい。

 分解はいつものようにスプール周りからいっておく。まああれだ、あたりまえのようにこの時代のスピニングにも3階建てのドラグが入っている。

 ドラグパッドの素材自体は、1枚がテフロンで他の2枚が赤いファイバーワッシャーに近いざらついた手触りの樹脂製で、なんだろ繊維が見えてるのでグラスファイバーのFRPかなんかだろうか?かなり摩擦が大きくてキュッと締まる感じで、締まりすぎるのを1枚滑りの良いテフロンで良い塩梅に調整しているようだ。ドラグノブにバネも入ってるので調整幅もそこそこあるし、今時のドラグがここからどれだけ進化したんだって話。

 スプールは主軸に直接ブッ刺さってるわけじゃなく、この時点ですでにスプールの乗る台座のうえにはドラグを受けて安定的に作動させるため太い軸にした真鍮の部品が主軸に刺さっていて、後のスピンフィッシャーシリーズにも踏襲されていく。スプールと同期する6角ワッシャーが1枚多いのは底が平面じゃないので底に填めているのが1枚。でアルミ製スプールなんだけど、アルミ直受けではなく真鍮スリーブが入れてあるのもスピンフィッシャーの良き伝統。ドラグ周りに関してはドラグパッドの材質やらドラググリスの最適化とか細かい改良はあったとしても、この時点ですでにほぼ完成形である。アホをカタログ上のボールベアリング数で釣るためにドラグの軸にまでボールベアリング入れたりしているのは、何度もしつこく書くけど愚の骨頂で、最近さすがにダイワさんはちょっと反省したみたいで、ネットフリマに「セル○ートフルベアリング化キット」とかいう馬鹿丸出し臭のする品が売りに出されてたので、セ○テートみたいな上位機種にいまさらボールベアリング追加する隙はないんじゃないの?っておもったけど、どの位置のか確認してみたらドラグ関連の位置で、どうやらメーカーとしてもやっぱりいらんと判断したようだ(過ちを認めるのは立派)。にもかかわらず、メーカー公式に逆らって、かつ、どう考えてもドラグの機能にボールベアリングの低摩擦性は必要ないのに、わざわざ「フルベアリング化キット」なる”ヘビの足”を安くもない金額で売りに出す者が居て、買いたがるマヌケも多いのが我が国の釣り具市場だと改めて認識させられウンザリである。

 本体に移って蓋パカッと開けていくと、まあこのあたりは714zとかでもお馴染みの単純明快なウォームギア機って感じで、ハンドル軸のギアはステンの芯で真鍮製、ローター軸のギアはステンレスと定番安心の組み合わせ。ハンドル軸は左巻き専用機なので片軸受けで軸は長い真鍮スリーブで受けられている。逆転防止のストッパーはハンドル軸のギアの下にあるラチェットに掛ける旧式のものだけど、それでなにか不便があるか?って話で、本体内にあるから防塵防錆性も良い。遊びを小さくして適正化、空いてる空間にデカいのを入れて強度を確保とかはローター軸のギア周りに持ってくる方式のほうが優れているかもだけど、諸悪の根源”瞬間的逆転防止機構”の邪魔くささに比べたら、たいして劣っている方式ではないと思う。スプール上下は単純クランク方式でウォームギア機の巻きの重さに追い打ちかける形かもだけど、スプールが直径大きいわりに幅が狭く上下幅がそれほどあるわけではないので、巻いて特段重く感じるほどのことではない。滑らかで耐久性が高いけどちょっと重い、っていうウォームギア機の”味”のうちと思っておけば良い程度だと思う。

 ここまでは、60年代にすでにスプール周りがほぼ完成されていることに驚きはしたけど、言うてPENNだし、わりとあたりまえって感じではあった、でもローター周りに手を付け始めると、次々に「オオッ!」と心の中で驚きに声を上げるような設計が見えてくる。

 まずは、ラインローラーに樹脂製スリーブが入っていることに驚く。704自体は1966年の発売となっているけど、これまでも書いたようにPENNスピンフィッシャーは細かなマイナーチェンジを繰り返して最適化していったようなシリーズである。この個体自体が60年代の製造なのか、その後のマイナーチェンジを受けた機体なのかちょっとわからない。でも新しくても黒金の「z」シリーズになる70年代中頃以前とかのはずで、PENNのこの形のラインローラーはその形状から、あるいはPENN社の得意分野がトローリングであったことからも、トローリングロッドのローラーガイドからの形状や機能の流用だろうと思っていて、ローラーガイドには最終的にはボールベアリング入りも登場しているけど、ローラーガイドに樹脂製スリーブが入っていた時代があって、そこからの流用とかだろうか?同じアメリールのシェイクスピア「2062」でも60年代E系には樹脂製スリーブが入ってなくて、70年代のD系になると樹脂製スリーブ入りになる。大森製スピニングも似たような感じで60年代の「マイクロセブンDX」では真鍮のスリーブで、70年代の機種になるとお馴染みの樹脂製スリーブ入りとなる。704zの樹脂製スリーブ入りが、60年代からのものだとしたら、樹脂製スリーブ入りラインローラーの”元祖”はPENNスピンフィッシャーシリーズだという可能性がでてきた。これまでワシ、真鍮スリーブ入れてた大森が新素材で滑りが良くて耐摩擦性に優れるポリアセタール樹脂がでてきて、こりゃ良いや!と真鍮から樹脂に素材変更っていうのが”本家”かなと思ってたけど、トローリングロッドのローラーガイド由来でPENN元祖説が新たに出てきた。いずれにせよ現在でも多くの場合過剰装備でしかないボールベアリング入りラインローラーより、単純で錆びにくく最適解に近い樹脂製スリーブ入りラインローラーがすでにPENNではこの時代に採用されていたという事実に唸らされる。ちなみに大型機以外のグリーニーな714とか712ではスリーブ入りではなかった。

 つぎに、細かい所だけどベールスプリングがベールアーム側と反対側(矢印のところに取り外したのが写ってる)の2箇所に入ってるのを見て「インスプール時代のカーディナルみたいやんけ!」と驚く。巻きの多いバネ2つ採用なら耐久性が良く、かつ片方壊れても片方で釣りが続けられるというカーディナル3とかと同様の工夫。なんかPENNらしくないというかアメリールらしくないってぐらいに丁寧に設計されている。「耐久性が必要?だったらバネをぶっとくしておいたぜ、ハッハッハー、ガシャーン(壊れそうな勢いでベールが反転する音)!」っていう印象をアメリールに持ってるのは偏見だろうか?ワシってばレイシスト(差別主義者)?

 ベールアームとベール反転機構は反対側に持ってきてあって、これは714zとかとも共通のPENNお得意の方式で、重量分散して回転バランスをとってある。あるけど、それでもちょびっとバランス取りの錘が填めてあるのが見て取れる。と同時に傘の骨かってぐらいにローターの底の梁が放射状に沢山設けられていて、そこは丈夫さには定評のあるPENN社製、頑丈に作ってまっせという感じがしていかにも頼もしいところ。

 でもってお次が今回の目玉。ローターをパカッとハズしてみたら、なんか見慣れない黒いタイヤみたいな輪っかが鎮座している。タイヤと書いたのはこれ素材がゴムみたいな弾力のある樹脂でできてるからで、最初意味が分からなかった。でどうやって分解してきゃ良いンだろうといじくってると、単純に引っぱがしたら良いだけのようで、3箇所で下の”蹴飛ばし”兼”ボールベアリング押さえ”の真鍮部品から飛び出てるキノコ型の突起に刺さってるのを剥がす。

 ここまでバラすと「アッこれアレかも?」と思い当たる。ベール反転の”蹴飛ばし”自体はベアリング押さえの真鍮リングから立ち上がっている坂状の板部分で間違いないんだとは思う。ただ、ベール開放レバーがその坂を登る前に、どうもやんわりとこのゴム状樹脂の上に当たっていて、ベールを起こした状態で回転にブレーキをかけているんではないだろうか。要するに”ローターブレーキ”なんじゃないだろうか?と思って、軽く組み直して試してみると正解!ベール起こした状態ではちょっと回転重くなってる。704zの展開図で確認しても、部品番号21B-704で「Rotor Brake」となっているのが確認できる。ローターブレーキ自体は量産型スピニングの元祖ミッチェル「300」の昔から存在していて、投げるときにローターが回ってしまい意図せずガシャンとベールが返ってしまうのを防ぐ機能として、いろんな仕組みでいろんなメーカーが作っていて、珍しくはない機構である。でも、スピンフィッシャーに搭載されているとは意外だった。なんかZシリーズの大型機には付いてるというのを目にしたような記憶もそういえばあるけど、アウトスプールの時代になると、VやⅥは知らんけど、外蹴りにはつけようがないし、内蹴りの中小型機にもローターブレーキは付いてなくて、PENNとローターブレーキというのは自分の中で結びついていなかった。なにしろストライパー野郎どもの巣窟である「ストライパーソンズ」とかのネット上の情報交換サイトとかをみても、「手に入れた710がすぐに勝手にベールが返ってしまって上手く投げられません」という相談に「ベールレス機に改造すればベール周りのトラブルとはおさらばさ!ハッハッハー」とかいう回答がごく当たり前のように上がっている状態で、東海岸系の釣り人はとにかくベールアームを引っぺがしたがる印象があり、704系のフルベールをベールレスのマニュアルピックアップ機に改造するパーツとかは、あっちのネットオークションサイトでも珍しくないのを知っているので、まさか704にローターブレーキが付いてるとは不意を突かれた。なんでローターブレーキ付いてる機種をマニュアルピックアップ化するかね?まあパーツ少なくなって面倒がなくて良いってのがストライパー野郎どもの気質なのだろう。ということにして深く考えないでおこう。何しろヤツらはベールレスにしたがる。スピンフィッシャーだとアウトスプールの4桁とかの大型機をベールレスに改造するキットも目にするし、にいたっては公式でマニュアルピックアップ機が準備されているぐらいに根強い需要がある。ある種の様式美かなんかだろうか?そういえばPENNのスピニングの旗艦機であるトルクにも公式のマニュアルピックアップ化パーツが用意されている。

 それはともかくローターブレーキって、変なところでベールを返さず真っ直ぐ投げられてミスしなければ無くても良いと言えば良い。でも人間ミスするし真っ直ぐ以外に投げにゃならんこともあるので、付いていればありがたい機構である。ワシ、バチ抜けシーバスで愛用してた4400ssは、柵にもたれるようにして上半身捻りつつ斜め上流に投げる場面が多く、どうしても捏ねて投げてしまい、4400ssはローターブレーキなど付いてないのでガッシャーンと意図しないベール返りを起こしがちであり、チョイ前に書いたけど内蹴りの部品を取っ払って、ハンドル回転ではベールが返らないようにしてしまって、ベールは左手で返すマニュアルベールリターン機として運用するという外法で対処しておりました。良い子は真似しないように。って感じなんだけど、21世紀になってやっと国産のスピニングにもローターブレーキに相当する機構が付くようになって、50年から昔のリールにやっと追いついてやがるって話なんだけど、これがまた再度退化しやがった事例を目にして、ちょっと腹に据えかねたので書いてしまう。昨年お客さんが使ってたリールが最近の安いシマノで、安シマノには「ナビ」で良い印象があったので、どんなもんかとちょっと使わせてもらったら怒りが湧く代物だった。ローターブレーキ付いてねえんでやがる。まあ安い機種なのでそれはそれで仕方ないのかもだけど、ローターブレーキ無しで意図しないベール反転をどう防いでいるかというと、元の木阿弥日本製スピニング暗黒時代よろしく、ベール返りを重くして返りにくくしてしまっていた。とてもじゃないけどハンドル巻いてベール返せんがな。初心者がこんなリール買って正しく利き手人差し指でライン放出調整しつつ、逆の手でハンドル巻いてベールを返すってお作法が身につくわけがない。大手が初心者にちゃんとした道具でちゃんとした方法教えなくてどうするよ?経費の関係で削るんならもっと削るべきところあるだろうって話で、少なくともベールがガシャーンと返ってしまってもハンドル回して軽く返るようにはしておくべきで、それなら正しい投げ方でないと投げられないので、使いにくくても練習にはなる。もっと言うなら瞬間的逆転防止機構を削ったら、防水もしなくて良くなって安くできるしリールとしての実用性は上がるし、なぜそうしないのか?初心者がアソビが無いかあるかとか気にするかよ、値段とブランドだけ見て買ってるだろって思うけどどうなのそのへん。少なくとも高級機種ではできるちゃんとしたお作法が安いヤツではできないってのは、御社の姿勢が問われる話だって誰もいわんのか?その時ワシが使ってたリールが、これがまた韓国日吉釣具の「ゴールドスピン」っていうベールの返りも軽く、簡易ローターブレーキもちゃんと付いてる実用性抜群の良くできたリールで、お客さんに比較のために触らせたら「全然違うじゃん」って道具詳しくない人でも分かったよ。まあ、ワシ、左手でライン放出調整してそのままベール返すのもやるし、マニュアルベールリターン機にしたりの外法で対応してたりもするので、正しい方法がどうこう言える義理じゃないかもだけど、安い機種に手を抜いて、安い機種を買う層である初心者が正しい方法を学ぶのを邪魔するのは大手がやっちゃダメなことだと思い、正直頭にきたって話である。皆さんもし釣具屋で安いシマノスピニングを触る機会があったらハンドル回してベールの返りを確かめてみてください。”うへぇ”ってなること請け合い。

 まあ脱線から戻って、なんにしろこの704というリール、ローターブレーキは付いてるし、ベールスプリングは2個ついてるしで、大きさこそ違えどまるで名機「カージナル3」とかのような仕様で、PENNにはあるまじき凝った仕様のイカしたスピニングなんである。無駄なモノは付いてない、必要なモノは揃ってる。丈夫さは折り紙付き。そりゃ米本国で最近になって色違い的後継機である704zの復刻版が出るわけである。今使っても何の問題もなく使えるだろう。復刻版が出たときにアマゾンの米国でのレビューとか読んだけど、「今までも使い続けてきたけど、これでこれからもずっと使い続けられる」とか書かれていて、あっちのお好きな野郎どもに愛されまくってきたのがうかがい知れる感じだった。

 まあわが家にある洋物の釣り本でも、東海岸なシーンには704やらミッチェルの大型インスプールやらが見切れている。ついでにフロリダのコビア(スギ)釣りのシーンでも左ミッチェル右706zという感じに見切れている。チョイ古い写真ではあるけど、今でもあっちの塩水系の釣り人はけっこうインスプールスピニングは好きな印象で、海だからってエラそうな高級スピニングしか使ってない我が国の、皆と一緒じゃないと不安な腰抜けどもと違って、好きなモノは好きなフリーダム具合、それがUSA!オーイェス!!

 ということで当初は使う気はなかったんだけど、コイツでガツンと青物でもやっつけて、今時の高級スピニングがなんぼのもんじゃ!50年前に必要充分な実用性のあるスピニングぐらいもうできてたんじゃ!というのを証明したくもなってくる。そんなもんワシが証明せんでも、いやっちゅうぐらいストライパーソンズが証明してるだろうけど、「あっちは匹数制限とか規則もしっかりしてて、魚も多くて釣りやすいだろうけど、日本じゃ魚はスレてて遊んでる余裕はない」とかクソみたいなこと言い出して、そんなもんどこでも魚がスレてるのなんぞ世界共通じゃ、アマゾンの奥地に行っても原住民のガイドのカヌーに日本の釣具屋のステッカー貼ってあるぐらいで、魚スレてないところなんてそうそうあるわけねぇだろバーカ、ストライパーソンズも東海岸大都市圏のスレッスレのストライパー向こうに回して、インスプールの愛機で気合い入った塩辛い釣りしてるのぐらい想像つかんのかね?つかねぇから遊べねえし楽しめねぇんだろうな、って哀れんじゃうよワシ。

 で、使うとなるとちょっとアップデートできる部分はしておくかという気はする。PENNは第4世代までは古いシリーズの部品で使えるモノは使いつつ設計していて、逆にマイナーチェンジ後や新しい機種の改良された部品を古い機種に取り付けるのも可能だったりする。50年前のリールが完成度高いので設計イジってない部分もあって90年代の4桁とか21世紀の第4世代とかと部品共有できたりするという驚きの事実。750ss系用のとかが使えます。ドラグ周り、そのままでもイケそうだけど、信頼のカーボンシート製のドラグパッド「HT-100」に2枚か様子見て3枚交換しておくとモアベターかなと。さらにはドラグノブはワッシャーを押さえる面が樹脂製から熱に強い真鍮製になって、さらに防水パッキンが付いた第4世代のものに交換すると憂い無しだろう。陸っぱり青物ならラインローラーは樹脂製スリーブ入りで充分だろうけど、もしこの記事を読んで船で沖に出て704でマグロとかをとなったらラインローラーは部品番号35-704、スリーブ35A-704で5500ssにも引き継がれて使われている部品であり、つまり社外品の5500ss用のボールベアリング入りラインローラーも使用可能(写真下が装着例)で換装しておけばなお安心。糸巻き量的には704zが235y/20lbでだいたい6500ssの220y/20lbと同じぐらいで、PEの4号250mぐらい巻ける。100キロのクロマグロは無理でも20キロぐらいまでのキハダとかならイケるでしょ。円安のおり割高になるけど海外のネットオークションには様々な時代の色違いやらなにやら弾数豊富に出品されている人気機種なので入手は比較的容易。なーに円安だろうと今時の高級リール様ほど金食い虫じゃないって。

 ワシ的にはまずは6500ssで魚釣ってないってのを脱却させたいので、そっちを優先だけど、いつになるか分からんけどそれが終わったら、704や706zで漁港の堤防から青物やっつけるとかいうのは長期的な課題として頭に入れておこう。堤防から青物自体は簡単じゃないけど、その時の道具的にインスプールの時代のPENNが充分以上に働くだろうことは確信している。

 PENN「スピンフィッシャー704」なかなかに良い買い物だった。


<事務連絡>”勝手にチャリティーオークション”は無事終了。報告は元ネタの方でさせてもらってます。お年玉の5500ssに応募者いまだなしです。タダでっせ!誰かもらって使ってやってください!!

2024年2月17日土曜日

売るためのとってつけた機能ではなく、釣り場からの要望とかの反映

4200ss~9500ss
 薄々読者の皆様お気づきかもしれませんが、ワシ「PENN」についてはちょっとうるさいよって感じで、このところ4桁スピンフィッシャーを分解整備してたんだけど「そもそも一括りに4桁スピンフィッシャーと言うけれどもニッチャァ」って感じでネットリじっくり書くこと沢山あって、前回あれほどネチクリネチクリと書きまくっても、まだ書き足りない。っていうか書きまくってたら収拾つかなくなって分けて書き残してた分をちょいと整理したのが今回のネタでございます。れいによってこれまでも書いてきたことの繰り返しにもなるだろうし、先週書いたことさえまた書いてるかもしれない。それでも書く。なぜならワシが書きたいから書くのである。熱暴走して頭おかしくなってるのかってぐらい書く。

 

550ss,5500ss,4500ss
 前回チラッと書いたけど4桁5500ssは3桁550ssの直系じゃなくてむしろ3桁450ssの直系であるとか、久しぶりに4桁スピンフィッシャーをいじってて改めて気付いたこともあり、そのへんを整理した感じの内容になる予定で、前回のネタが「4桁スピンフィッシャーの薦め」的な一般的?なモノだったのに対し、今回のネタはPENNに興味の無い人には一切楽しめそうにない重箱の隅をつつくようなネタで、主に3桁から4桁への変遷過程を推理しつつその辺りを行ったり来たりしつつ書いていきます。PENN沼の皆様におかれましてはそこそこ楽しめる内容になると思いますので楽しんでいってくださいね。

 スピンフィッシャーの3桁と4桁の違いというと、3桁は全モデル金属本体で4桁になると5500ss以下が樹脂製本体になるという大雑把な印象が一般的だと思うけど、実は正確ではない。なぜなら3桁にも樹脂製本体のが存在するからである。

5500ss,4500ss,4400ss
 3桁シリーズのうち、最初実は440ss450ssも左ハンドル専用の金属本体の機種だった。形式は420ss430ssがそうであったように、インスプール時代のZシリーズをアウトスプール化したような外観。おそらくウォームギア機。しかしこのモデルは短命だったらしく「ミスティックリールパーツ」さんところの写真などで外観の写真しか見たことがなく、オークションでも出てきたのを見たことがない、内部のギア方式とかは不明。ちなみにミスティックリールパーツさんところの450ss、440ssの冒頭写真は左専用の初期型だけど、展開図やパーツリストはその次の左右両用版になっている。この左右両用版になった時点で、なぜか440ssはカーボン樹脂本体、450ssは金属本体と分岐している。この時の2機種の機構が実は4桁4400ss4500ss5500ssの元になっていて、ベールアーム側に反転機構を、反対側にベールスプリングを持ってくる構造はここから採用されている。なので、3桁550ssと4桁5500ssとではボディーが金属製から樹脂製に変わったということだけでなく、設計が550ssより後発で改良が加えられた450ssの後期型に寄せられていて、ベールスプリングの巻き数も増えて耐久性も増しているのである。ちなみに3桁から4桁にかけての変化として、ギア方式がスパイラルベベルギアの中心軸をズラしたようなハイポイドギアから、今のスピニングの標準的なギア方式であるハイポイドフェースギアに変わったことを把握している方も多いだろうけど、私の見てきた限り、4桁になっても初期の頃は余ってたハイポイドギアぶち込んでたのか、ハイポイドギアの4桁6500ssとかが存在するのを確認している。

ドングリノブ、樹脂ノブ金ハンドル、樹脂ノブノーマル
 ついでに、4400ss4500ss5500ssの初期型はドングリノブが付いてるタイプで、これらはギア比が大きいハイスピードタイプになっている。なぜなら、これら初期4桁中型機も3桁に搭載されていたハイボイドギアを突っ込んでいて、ギア比も5.1:1の3桁後期のギア比を当然ながら踏襲しているからである。その後4桁の当該3機種はドングリノブではない金ハンドルの時代になって、4桁では標準的なギア比4.6:1のハイポイドフェースギア搭載に変更されている。そして黒ハンドルT字樹脂ノブのよく見るハンドルの時代に移行していく(写真はすべて4500ss)。

 おさらいでスピンフィッシャーZシリーズから3桁そして4桁への推移を見ていくと、まず小型機716z714zはそのまま金属本体の左巻き専用機で、ギア方式も互換性があるぐらい同じなウォームギアを踏襲して3桁420ss430ssに引き継がれ、4桁に移行する際に樹脂本体になるとともに内部のギア等を一新、4200ssではハイポイドフェースギア採用で”大森っぽい小型スピニング”に、4300ssはギア方式こそウォームギア方式を踏襲するも、ハンドル軸のギアは小型化され左右両用になって生まれ変わった。ただ両機ともに3桁時代とスプール互換性はあって双方持っているとスペアスプール体制が組めて便利だったりする。

 Zシリーズのその前身というか色違いの”グリーニー”な716、714から4桁まで小型2モデルはずっとワンタッチスプール採用で、惜しむらくは第4世代の”ssg”になるとワンタッチスプールが廃止で小型機についてはスプール互換性がなくなる。ギアは中型も含め4桁と同様の形式のものを踏襲している。

 同じ型番のモデルでも発売年とかで微妙にちがってて、716、714と716z、714z初期が実は単なる色違い程度の違いなんだけど、716Z、714z自体は90年代まで4桁と並行して作られていた超ロングセラー機なので、細々した違いが生じている。古いのはハンドル根元に注油穴が開いていて、本体蓋が金属製。新しいのは注油穴省略で本体蓋も樹脂製に変更されている。
 4200ss、4300ssも細々とした変更が加えられていて、後期型はハンドルが改良されて写真上の上の方の半月型にギザギザが入ったタイプに変更されている。前期型のハンドルノブは掃除がしにくくて回転が悪くなりがちなのでそのあたりの改良だと思う。あと、ワンタッチの爪が金属の三枚羽タイプから後期型は、白い樹脂製の取り替え式の爪を填める方式に変更されていて、金属の爪は折れると主軸ごと交換なので、爪だけ交換方式は経済的で良い。今時のリールでワンタッチ式スプールってほぼ絶滅(ミッチェルブランドの最近?の機種にカートリッジ式があったっけ?)してるけど、素早くスプール交換できてドラグもいじらなくて良いのは実用面で大いに利点だと思うけど、まあ実用面なんて売れるか売れないかにあんま関係ないってのがここまで証明されてしまうと、流行じゃなくて売れそうにない機構はわざわざつけんのだろうな。大型リールで付いてたのはメタロイヤルフィッシングサファリとかのリョービ勢が最後だったけど、リョービも釣り具部門売るハメになったし、ホント良いモノ作ってりゃ売れるってワケじゃない。

712,440ss,4400ss
 中型機に移ると、初期の左巻き専用440ssが712zと同サイズなのかは実物確認してないのでなんともあやしいけど、先ほど書いたように初期版の440ssはZシリーズみたいな形状の左巻き専用の本体なのでその可能性はあると思っている。コイツの中身は不明だけどおそらくウォームギア機で、次にでた後期?440ssは、設計から言ってほぼ4桁4400ss同様の仕様だったようだ。本体樹脂製で712z(写真は712)ではドラグが3階建てだったのが、440ss及び4400ssでは直径の大きな1階建て方式になっているので、おそらくアウトスプール化した初期440ssのときに変更してから踏襲しているのだろう。4400ssより大型の4桁には終盤日本仕様の”ssj”モデルがあって、コイツには元は9500ssにしかなかったラインローラーのボールベアリングが入った。4400ssは途中からギア方式がハイポイドフェースギアに変更されているが、初期のドングリノブ個体にはハイポイドギアが入っていて、440ss後期樹脂本体版と4400ss初期ハイポイドギア版は同一仕様ではなかろうか?っていう感じで意外にズルズルとちょっとずつ微修正加えながら改良されていってるというのが、このことからもうかがえる。ちなみに、3桁に金属本体じゃなく樹脂本体のがあったと書いたけど、ということで440ssの後期型?がそれ。写真ではかすれかかってるけど「GRAPHITE」の印字が読める。叩いて確かめると確かにコッコッて感じの樹脂製の音がする。
 あと細かい話だけど4400ssの時代にスプールの上部の形状が変更されている。旧型は稀にラインがドラグノブの下に巻いてしまうことがあるけど、新型はそうならないようになだらかに傾斜させてある。
 写真左が旧型スプールwith初期4400ss、右が新型スプールwith後期4400ss、440ssgドラグノブを添えて。って感じで第4世代440以上の機種はスプール3桁4桁と互換性があり、当然ドラグノブも互換性あるんだけど、後発の第4世代ssg、ssmのドラグノブは効果あるんだかないんだか防水パッキンが追加されていて、それとは別にドラグノブの止まりが良くなってて緩みにくくちゃんと進化してるので可能な範囲で換装してある。
 ついでに書くと以前書いたように、大型機とかのドラグノブは当初樹脂製だったのが4桁後半にはドラグワッシャー押さえるアタリ面が金属製にアップデートされている。も一つついでに書くなら4400ssとか中型機は逆転防止のラチェットの歯が6(4もあったかも)から8へと増やされていて、途中からドックを留めるEクリップが追加されている。ラチェットの厚みがEクリップ有り無しで違うようで互換性無いので注意が必要。(追加註:最終モデルでラチェットを爪ありドックではさむのではなくダイワっぽく針金パーツで主軸の回転を利用して消音化してる爪無しドック版も存在した様子、互換性有る無しはこの最終モデルとそれ以前かも?) 

 次に、初期450ssと710zが大きさ的に対応しているのかはこれまた怪しいところだけど、700zが550ss、704z650ss706z750ssと一応糸巻き量的にはやや近いので、710の本体形状をそのまま活かして初期450ssは作られたと考えた方が自然かなと思っている。450ssの後期版は440ssとは違って金属製であり、ひょっとしたら後期版440ssと450ssを同じような設計で金属本体と樹脂本体とを作って市場に出して、故障の出方や評判を見て次のシリーズである4桁の設計に生かしたのではないかと愚考する。結果、樹脂製本体は時流でもあり、市場でのユーザーの評価も悪くなく「すぐ壊れる」なんてクレームも上がってこないので「よっしゃ中型機までは樹脂製本体でいいな」という判断になったんだろうと思う。で、設計的には似た感じの440ss並びで樹脂本体化して4500ssになったという流れか。

 でもって、550ssは登場初期から700zをアウトスプール化しただけの設計ではなく、最初から左右両用ハンドルの金属本体モデルで、かつスプールとか共通だけど意外と後継機の5500ssとは設計が違う。5500ssでも途中からギアがハイポイドギアからハイポイドフェースギアに変わってるのもあるけど、写真右が550ssだけどベール反転がベールアーム側にあって、かつベールスプリングもそっちに入ってるので、回転バランスから考えても後期440ss、450ssで始まったベールスプリングがベールアームと反対側にあってベールアーム側には写真左のようにベール反転機構が入ってる5500ssの設計の方が重量分散してて良さげだし、何よりあのウニャァっと伸びてる2回巻きのベールスプリングより、5500ssにも採用された後期450ss、440ss方式の3回巻きスプリングの方が、どのみち1.5倍ぐらいじゃ定期的な交換は避けられないにせよ長持ちはする。ということで、5500ssは550ssの直系というよりは、後期450ssの直系に近いのかなと思っている。550ssをまず発売して、その問題点や左右両用の好評さとか勘案して改良した設計が後発の後期450ssだとも考えられる。樹脂本体という点では後期440ssの設計を5500ssに反映したとも言えるけど、440ssはドラグが1階建てで、4500ss、5500ssはドラグが3階建てになる点で設計上の違いが大きい気がする。というような紆余曲折ありつつも4500ssと5500ssは樹脂製本体、ベール反転機構とスプリングが分散式、ドラグが3階建てと共通の設計思想で、糸巻き量違いの兄弟機だとワシの中では分類している。

8500s,7500ss,6500ss
 で、兄弟機という点では大型機に移って650ss、750ss、850ssは糸巻量違いの兄弟機だとこれまた思っている。アウトスプール化の時におそらく750ssの元になった757をベースに設計されたんだろうと思うけど、とにかく単純丈夫な鋳造アルミ本体の外蹴り機でぶっ壊れるところが少ない。ベールスプリング意図しないベール返りで壊れるストッパー周りを用意しておけば、遠征先でも困ったことがない。ストッパーはよしんば壊れても予備のカチカチ鳴る方を使えば当座はしのげる。っていう感じでこの3桁3機種はこれはこれで完成形に近く、4桁6500ss7500ss8500ssになってもギア方式がローター軸のギアを真鍮製のかさ歯車に斜めに溝を切らにゃならんようなハイポイドギア方式(ハンドル軸は真鍮だったりアルミっぽい素材だったりなんだりかんだり)から、安価で製造しやすいローター側真鍮、ハンドル側真鍮芯亜鉛鋳造のハイポイドフェースギアに順次(最初の頃の4桁にハイポイドギアが入ってることがある。ギアはセットでなら互換性あり)換えたぐらいでほぼ一緒、最後の方でssjにはラインローラーにベアリングが入ったけど、まあこのクラスのマグロとかが掛かる可能性があるようなサイズのリールには社外品のボールベアリング入りラインローラー入れるのは普通で、ボールベアリング嫌いのワシでも念のため入れちょったぐらいであり、あんまいじる必要もないリールだったわけである。ハンドルピンが曲がるって?それはスピニングリールの使い方を分かってなくて”ゴリ巻き”して壊しているだけであって、ポンピングで竿で稼いだ分だけ巻いてりゃ純正ハンドルでも壊れないって話は証明済み。ついでに書くと7500ssと8500ss(750ssと850ssも)はスプールとそれに伴ってローター周りの大きさ変えただけっぽくて、ギアも共通で本体蓋さえ共通の仕様。っていうのに銘板ハゲ個体の7500ssj用の銘板付きの蓋探していて気がついた。

9500ss
 そして、4桁から投入の超大型機9500ssは最初っからマグロとかドラグ使って走らせまくって獲るための機種として設計されている。どっかの大手メーカーさんがさも新しい技術のように宣伝してた、スプール裏面の広い面積を使ってデッカい直系のドラグパッドを用いる方式を90年代には採用し、尋常じゃない速度で走る魚にラインをくれてやって対応するべく、糸巻き量は30lb340ヤードと新品のスプールに糸巻くとくたびれる大容量。そして最初っからラインローラーはボールベアリング入り。黎明期のジギングで数々の記録がこのリールで打ち立てられたのは必然だったのかと。そういうのを狙って設計されています。

 っていう具合で、4桁スピンフィッシャーには、インスプールの70年代から脈々と引き継がれてきて、PENN社のそしてPENN使い達の知識やら技術やら情熱やら要望やらが詰まって形作られていった究極の実用スピニングだとワシャおもっちょるのさ。

950ssm,430ssg
 第4世代と呼ばれる3桁ssg、ssmシリーズも逆転機構を一方通行のベアリング一個に任せてしまって簡略化し、ギア方式は踏襲、小型モデルを除き引き続きスプール共通な、単純設計で丈夫なスピンフィッシャー直系のシリーズだと思うけど、諸悪の根源”瞬間的逆転防止機構”はPENN社をしても完璧には設計しえず、430ssgは使いやすくて気に入ってるけど、冬の東北に持っていくとグリスの粘度が上がって逆転防止が効かなくなる。とかいうのを何とかしようとすると、結局PENN社でさえ日本の大手と一緒で、やれ防水性がとか、本来水辺で使う道具に入れちゃダメな種類の濡れるとダメな機構を入れたがために面倒くせえことになっていて、も使ってみたいけど二の足を踏んでしまうのである。

 

 という感じで、4桁中心に細かいネタをあれこれ突っ込んでみました。この手の”何年式モデル”みたいな話は歴史の長いリールではお馴染みのネタだけど、丸ABUやらミッチェル408、308やらほど我が国では人気がないPENNスピンフィッシャーについて、誰か書いてくれると良いなと思いつつ、ワシぐらいしか書かんか?と諦めて書きました。と言いつつ年代書いてないけどミスティックさんところで調べれば分かるし細かい年数とかは興味ないので無視。ちなみに樹脂製の4桁スピンフィッシャーにはデカールの下とかどっかに製造年が刻印されてたりするけど、本体パーツを作った製造年でしかなく同じ本体で中身の仕様がヘタするとギアごと変わってたりするのは書いたとおりであり、あんまアテにならんと思ってます。でもって全体的な設計変更や新機種投入の経緯を見ていくと、タイトルに書いたとおり、往年のPENN社は売るためのギミックぶち込んで新製品をドーン!っていうのはあんまりやらなくて、故障対応なり要望なりを受けてだと思うけど、チョコチョコとしたマイナーチェンジでの対応が多くて、新製品出すときも事前に前のモデルの後期型とかで試した変更を良かったら採用とかいう感じで、いきなりわけわからん機構を実戦導入とかは避けて、仕様を一気に換えてしまうようなことが少ないのが分かる。パーツも古いのがそのまま使えるようになってたりして、その分の金型代やら開発費やらは抑えられていたハズである。機能的に変わらないところでも、新型ではデザインだけ換えて目新しく見せて売るのに全力投球な国内大手とかとは、リール作りの姿勢が全く違っていたといって良いだろう。

 でもまあ、PENNもピュアフィッシング傘下に入って、スピンフィッシャーもⅤやⅥは古い機種と部品互換性とかもあんまりなくなってしまった。でも、Ⅵとかもういじるところあんまり無いなという感じなのか、モデルチェンジしばらくしてなくて、ずいぶんなロングセラーになっている。コロコロ新製品出すのは別のシリーズに任せて、スピンフィッシャーは長く使える基本性能で売るとかなら、ピュアフィッシングさんも分かってらっしゃると評価するけど、実際のところどうなんだろ?

 714zや706zの復刻ものとかもあるので、潜ろうと思えばさらに沼の深くに潜っていくことも可能かもだけど、まあ息がそこまでつづかないので、今宵はこのへんにしとうございます。まあまあスッキリするぐらい書けたかな。

<業務連絡>17日土曜朝現在、お年玉プレゼントの5500ssに応募者無しです。このブログ読んでるような沼の住人はみんな5500ssは余らせてるのか?引き続き募集中です。勝手にチャリティーオークションの方は2台とも入札有りですがこちらも引き続き参加お待ちしてます。

2024年2月10日土曜日

古今東西史上最高の実用機はPENN社4桁スピンフィッシャー

  (当社比)。

  釣り具に求められるものは、必ずしも性能や実用性だけでないことは重々承知で、ややジャジャ馬な丸ミッチェル使いこなす楽しみなんてのも知って、そういう実用面以外も大事だと改めて思うようになったけど、今時のリールが高性能高機能を謳ってるわりには、ぜんぜん道具として実用度が高くなさそうに思うのであえて書く。実用性にこだわるなら、4桁PENNで事足りる。今時のハンドルもたためン、水辺で使うのに浸水したら不具合生じるようなクソリールよりは少なくとも実用性が高いと改めて書いておきたい。

 でもって、今6台の4桁PENNを整備しているところなんだけど、最近ワシもうちょい古い時代のインスプールの714zをシーバスでは主に使ってるし、4桁は青物とか狙うのに4500ssをたまに投入するぐらいで出番作れていないのになぜ6台も整備する必要が出てきたのか?縁というのは実に妙なるもので、当ブログの読者様から「実はペンリールを整理していた所、使わないリールなどが出てきたので是非ナマジさん引き取って頂けないでしょうか?ヤフオクなど出品も面倒でしないので受け取って頂けるとありがたいです。」とのメールがあり、まあワシも好きなほうなのでありがたく頂戴したところ、送られてきたリールたちをみて「しまった、軽くホイホイともらってしまったけど、これはモノが良すぎる!」とちょっと焦った。使い古してボロボロのを何台かもらって使えるように整備してやろうぐらいのつもりでいたけど、1台やや回転重くなってるのがある程度で、特に整備無しで実戦投入しても問題無さそうなのが、スペアスプールも豊富に6台。具体的には5500ss(j)3台、4500ssj、4400ss、440ssで、そんなに値段がつく機種ではないにしても実用機としての根強い需要はあって、1台5千円ぐらいはヤフ○クとかに流しても値が付きそう。銘板ハゲ個体すら一台しかなく状態は良好。

 さすがにこれは申し訳ないと「オクで売るので半額返させてください」等と提案してみるも「ブログ楽しませてもらってるお礼です、老後の資金の足しにでもしてください」とやんわり断られてしまった。ここでご厚意を固辞するのが不粋なのは自明なので、ありがたくいただくことにした。特に、ドングリノブとコーヒーミル型ノブの個体は、PENNのT字ノブは軸がやや太く指の腹が痛くなってくるのであまり得意でないワシには好適で、中型機のコーヒーミル型ハンドルは中古市場でも弾数少なく貴重なので実用面でありがたくもある。

 とはいえ、わしの釣り人人生はこれまでも諸先輩方や仲間にいろんなモノを有形無形問わずいただいてきてばかりである。いかがなモノかと思わなくもない。とても素敵なエピソードで何度か紹介したネタだけど、スピルバーグ監督がインタビューで「あなたは既に充分なお金も名誉も得ているのに、なぜまだ映画を撮り続けるのですか?」というクソみたいな問いに「オレはディズニーに神聖な負債があるんだ。だから映画を撮り続けなければならない」と答えていて、いたく感動した。ワシも諸先輩方や、釣りの技術や文化を創造してきた先人達にシャレにならないほどの神聖な負債がある。良くしてもらった本人に返す機会があれば返しても良いんだろうけど、彼らはワシからの見返りなど期待もしていなければ、彼らに受けた恩に報いるだけのものを返す術もぶっちゃけ持ち合わせていないし、遠い先人とかであれば返しようもない。ただ、ワシが負債を返すのを、彼らが若輩者であるワシにしてくれたように、ワシの後輩である若い釣り人やらに返すというのは、神聖な負債の返し方としては上等で真っ当なものであり、そうやって技術だ文化だ精神だというものは引き継がれていくのが正しいのだろうと思う。微力ながらワシもそう思って、釣具屋さんにあんまり騙されすぎないように、こんなブログを書いたりしているし、迷える子羊たちにヒントになるような釣りに関するアレコレを書いたりもしている。釣りの面白さ、楽しさ、苦しさ、難しさをも伝えたいと、丸ボウズくらったり手ひどい失敗したりとかもなるべく包み隠さず釣行顛末記の方には書いている。そういった聖なる負債の返済の一環として、今回、新春お年玉企画として、縁あってわが家に来た4桁PENNのうち、とりあえず確保したい3台を除いた3台を、4桁スピンフィッシャーの良さを知ってもらって、実用度の高いリールっていうのはこういうモノだよってのを実感してもらうために、きっちり整備して読者にプレゼントしてしまおう、というつもりでいたところ、お屠蘇気分を吹っ飛ばす北陸の地震で企画は一旦お蔵入りとした。

 で、まだまだ被災者はインフラの復旧もままならない中ご苦労されているとはいえ、ボランティアの募集も始まったようで、次の段階に移行しつつはあるようだ。ということで、そろそろ良い頃合いかなと蔵から企画を出してきたんだけど、ワシ良いこと思いついた。これ自主的チャリティーオークションにしてしまって、得たお金を能登半島地震関連に募金してしまえば、4桁PENNが欲しい人にリールが渡って、かつ復興の一助にもなる。ワシは整備と出品の手間ぐらいで、元の持ち主の方も悪くない使い方だと思ってくれるだろう。ということでチョイチョイとパーツを組み替えたりしつつ比較的綺麗でかつ、売りやすいラインローラーにボールベアリングが入ってる”ssj”な5500ssjと4500ssjとをヤフオクに出して売上金を全額寄付。残りの一台5500ssは銘板片ハゲ個体なので値段つきにくいし、コイツは読者への遅いお年玉ということで一名様に送料もこっちで持つのでプレゼントしてしまいたい(海外の方は送料高いので無理です)。お年玉の方は使って気に入らなければ売っぱらおうがなにしようがかまわないけど、最初から転売目的は遠慮してください。何釣りに使う予定か等を書いてサイトのホームページ下の方にあるメールアドレスまで「5500ss希望」と明記のうえ、送り先、氏名と電話番号を書いてご連絡ください。着順とメール内容を考慮して、こちらで一名様に発送させていただきます。ヤフオクの方は、商品説明の隅の方に括弧書きで(売り上げは寄付する予定だけど落札者に個別に報告とかするつもりないのでブログ読者以外は気にしないで)との旨書いて出品中です。締め切りは17日(土)の夜ですのでふるってご参加ください。売り上げ寄付した証拠の画面はプリントスクリーンででも保存して後で当ブログでご報告かなと考えております。

 というわけで、久しぶりの4桁PENNの全バラしフルメンテ、改めて気がつくことなどもあったので、4桁PENNの宣伝がてら、その設計やら何やらを紹介してみたい。とりあえず4500ssと5500ssは大きさが違うだけで設計等はほぼ共通の兄弟機なので、4500ssjを例にご託を述べてみたい。

 まああれだ、リールの本質は”糸巻き”と言われるぐらいでスプール周りのデキの良さ作りの丁寧さを見てもらえれば、このリールがいかに実用度が高く、戦闘力が高いかご理解いただけるかと。

 ドラグは3階建てでカーボンシートのバッドと、別にどうということはないように見えるかもしれない、ただカーボンのドラグパッドにはインターナショナルやセネターといったトローリングというドラグが重要な釣りでPENN社が培った技術がこめられており、スピニングへの採用に関しては先駆者的な存在でもある。多少調整幅が今時のスピニングより狭い程度で、ドラグの性能自体はPENNに勝てるモノがあるとは到底思えない。トローリングの世界での圧倒的な実績を考えると昨日今日ドラグを付け始めたメーカーのドラグが魚掛けてからの性能でPENNを凌駕することなどありえんぐらいに思っている。そのぐらいPENNのカーボンドラグパッド”HT-100”は信頼性が高い。調整幅がやや狭いけど、だいたいそのリールの大きさで狙う魚に相応のドラグ値あたりにドラグノブ締めていってキュッと締まる前後で決まるようにはなっていて、気に入らなければ緩めるなら一枚テフロンパッドに締めるなら一枚赤ファイバーワッシャーにとかで調整は可能。あと、初期のドラグノブは樹脂製だったけど、途中からドラグワッシャーを押さえる部分は真鍮製になっていて、高速でスプール逆転してドラグが熱くなってドラグノブが溶けることがないように改良されている。ドラグはそのぐらい熱を持つということは知っていると、ペットボトルの水掛けて冷却したりと対策もとれる。

 でもって、ドラグがブッ刺さっている軸は真鍮で太くしてある。これ理屈は良く分からんけどドラグの作動が安定するようには感じていて、アメリールだと60年代製造のシェイクスピア「2062」も既にそうなっていて、干からびてた皮のドラグパッド換えてやったら調整幅、作動の滑らかさ共に文句なしの状態に調整できた。軸が太いのが安定性に寄与するのなら、ボールベアリング噛ませるのも軸?は太くなるわけで安定性の面では役立っているのかもしれないが、何度も書くけど負荷が掛かった”重い”状態で回転して機能するドラグにボールベアリングの軽く回る”低摩擦生”は全く必要ないだろうと思う。ポリアセタールのブッシュでもカマしとけば軽くて安くて充分だろうと思う。アホかと。あと、この真鍮製の軸、実は割れます。といっても割るのにワシぐらいのヘビーユーザーで10年ぐらいかかったけど、当時はすぐにPENNリールジャパンから部品取り寄せ可能で問題生じず、後に「ミスティックリールパーツ(当時のスコッツ)」さんで予備確保しておこうと思ったら実際に割れた5500ss用のは売り切れていて、ハードに使い倒すとやっぱり割れるようなのである。ちなみに4500ssのは在庫あったので確保してある。真鍮の部品が割れるぐらいに海のルアーとかやってると道具は酷使するわけで、ドラグなんて滅多に使わない内水面の釣り中心の場合とは道具の評価基準も自ずと違ってきてあたりまえである。

 ということで、本体は4桁になって樹脂性になってもスプールは丈夫なアルミ製。でも丈夫なアルミ製だとしても真鍮の軸が割れるぐらいにドラグを使うことを想定すると、軸をアルミで直受けすると削れる。なので、ポリアセタールかなんかの黒い樹脂製のスリーブが入れてあるって思ってたけど、今回よく見てみたらスリーブには真鍮製のものもあるようで、いずれにせよ回転部分は直受けせずにスリーブ入れるという丁寧な仕事ぶりなのである。下の写真の右が樹脂スリーブ入りで左が真鍮スリーブ入り。

 スプールエッジの形状も真っ直ぐで端だけちょっと斜めってて、今時のスピニングと機能的にあんま変わらん。この4桁PENNのスプールから、今時の高級スピニングのスプールがなにか進歩して明らかに優れている点ってあるんだろうか?ワシ思いつかないんだけど?かつ、ボールベアリングまで入れてクソ高くなってるとおいそれと替えスプール体制組めんだろって話で、新品で2千円台とかで売ってて替えスプール2個3個と用意していろんな釣りに対応できたりしてた4桁PENNのアメリールらしい質実剛健、実用的で無駄のない造りは”戦闘能力”高いなと思うのである。替えスプールは増やすと如実に効果がある買う価値のあるモノだと思うけど、今時の高級リールのユーザーってちゃんと替えスプール用意してるんだろうか?替えスプールだけで何万とかしてまっせ。

 次にパカッと本体蓋を開けていく。ギアとスプール上下機構(オシュレーション)は普通。どってことない仕様でローター軸のギアは真鍮、ハンドル軸のギアは真鍮の軸を鋳込んだ亜鉛、と真鍮と亜鉛の経済的なハイポイドフェースギア。スプール上下機構もハンドル軸から回転を持ってくる単純な減速式で、今時のみたいにカムがS字になってたりしないので巻き上がりは上下に盛り上がりができる。けどまあ気にするほどでもないかなと思ってる。端が崩れてドバッと出るライントラブルとかは糸巻き量を減らせばどうにかなるし、スプール上下幅と糸巻き幅をキッチリ合わせたければスプール下面に板でも貼って調整してやってもいい。ワシャそこまでやるのは面倒なので、スプール座面のテフロンワッシャーを薄いのに換えて前巻き気味にして使ってたりもするけど、そのままでやや糸巻き量少なめ運用が面倒が無くて良いかなと思ってる。特に尖ったところのない”普通”の安っぽくさえあるギア周りである。ハンドル軸が真鍮でネジ込みハンドルになってるのは丈夫で良いけど、こんな安デキのギアで大丈夫かと、今時の”我が社のギアは特別製で素材からして強度があって”とかやってるのを目にしていると思うかもしれない。でも大丈夫なんである。回転の軽さとか本体の軽さとか気にせず、充分な余裕を持って設計しているんだろうとおもうけど、この4桁PENNのハイポイドフェースギア、ワシいまだギアが逝くまで使い潰した個体はないっていうぐらい長持ちします。超ジュラルミン?鍛造?そんなもんどうでもいいから、充分な分厚さと接触面を確保して設計しておけって話なんだと思う。どうせ魚釣るときには魚が掛からなくってもルアーの重さとかが掛かった状態で巻くんだから、リール空回ししたときにいくら軽く回っても意味ねえっちゅうの。ギア比やらギア方式を効率よい方式に変えるのならいざしらず、空巻きした時に軽くまわる性能が魚かかったときに軽く巻けることに有利に働くとは思えない。マイナスには働かなくとも無視できる程度の差でしかないだろう。例えばシャッターの上げ下ろしの手巻きウィンチとか、ベアリングもクソもないようなキリッキリやかましい代物でも、ギア比が適正ならキリキリ巻いてるとちゃんとシャッター動いてくれる。あれにベアリング入れて空回り時クルックルに仕上げたとしても軽く回せるようになる理屈が無い。油ぎれで重くなってたらさすがにまずいだろうぐらいのことはあるにせよ普通に回ってれば充分で、空回しでクルクル軽く回ることと魚が掛かったときに力強く巻けることにはあんまり関係がない。よっぽど軽い仕掛けやルアーを使う場合は空回しと同じような巻き心地で釣りができるのかもしれないけど、そうなってくると巻きが軽すぎるときに起こりがちな”巻き感度”が悪くなるという不具合も生じてくる感じで、空巻きで軽く滑らかに回ることに実釣上の優位性などほぼ無いと思った方がいいと思う。

 本体樹脂製なんだけど、本体蓋留めているネジはタップネジを樹脂に直接ねじ込んでるんじゃなくて、金属製の雌ネジを填めてあって、分解清掃等メンテナンスを前提として設計されていて好感の持てるところ、スピンフィッシャー第4世代の430ssgは使ってるウチにネジ山潰れてきてリコイルで修復した。

 あと分解清掃で憶えておいた方がイイのがハンドル軸のギアを抜く順番で、本体蓋開けてすぐに抜こうとしても抜けない。なぜならスプール上下用の歯車が主軸と逆転防止のスイッチ用の軸に邪魔されて抜けないから。まずネジ2つでガッチリ止めてある主軸を抜いて、しかる後にハンドル軸のギアを抜くというのがお作法です。

 でお次はローター周りバラしていくんだけど、この個体はラインローラーにベアリングが入っていて、かつ規格品の小さいボールベアリングにあわせたのか、ラインローラーの填まる軸の太さがそれまでと違う新規格になっている。そして、その太さの違うベールワイヤーの軸に銅色のボールベアリング入りラインローラーが填まっているので、社外品のボールベアリング入りラインローラーを組みこんだのではなく、コイツは4500ssの終盤にでた4500ssjなんだろうと思う。ベールワイヤーごと交換してssj化するのも良くやられていたので、その可能性もあるけどとにかく仕様としては4500ssj。これが、つねづねこんな潮かぶりやすいところにボールベアリング入れたらいかん、と言っているのを裏付けるかのように錆が出ている。この位置のボールベアリングの錆を防ぐには毎回塩抜きでパーツクリーナーやCRCに漬ける必要があって、海で釣りする人には一般的な水道水でジャブジャブ洗った程度では塩残ってしまう。だったら錆びないポリアセタール樹脂入りの旧型のラインローラーの方が良いじゃないか、ということなんだけど、シーバスぐらいまでは全くそうだと思う。陸っぱりの青物でもそれで足りる。でも船でシイラカツオ釣りに行ったら、なんかエラいのが掛かってしまった、っていう状況は想定の範囲内である。具体的には10キロ越えるようなマグロ系、メーター軽く越えるようなサワラ系、あるいはカジキ系のような、ある程度重さもありつつ速い魚だと、ラインローラーにベアリングがあった方が安心なんである。ラインローラーの回転に掛かる力(摩擦力≓回転の重さ)は、ラインを引っ張る力と引っ張る早さの2乗に比例するはずで、設定してたドラグ値で速度が落ちていく程度の大きさの魚はいかに速くてもラインローラーの限界を超えることは無い。カツオとか速さは特筆モノだけど、普通2キロとかのドラグを逆転させながら加速していくほどではない、これが重さも速さもある想定外の大物だと、設定したドラグ値を屁ともせず加速していき、速さの2条に比例するが故にある程度の速度に達するとアッサリとローラーの回転を止めるほどの摩擦力が生じてしまい回転が止まり、固定式のラインガイドに成り下がりかつ90度一番角度を付けてラインを曲げている摩擦がキツい部分がローラーの部分なので「バンッ!」と破裂音を残して切れてしまう。んだと思うんだけど、まあ理屈はこれであってるのかどうか知らんけど想定外の速度で走られるとラインローラーで切れるっていうのは現象としてあると思う。なので、マグロやらがでてきそうな海域に船をだすとかの場合は、ラインローラーにベアリングが入ってるのは安全策として機能しえる。元々のラインローラーの回転にかかる力、引っ張る力がボールベアリングが入れば軽くてすむようになり、かなりの状況に対応できるようになるだろう。ということで、ワシは船で沖に出るときは念のためボールベアリングあった方が良いかな、って思って、陸っぱりなら青物狙いであってもマグロなんぞかからん!(とは限らんけどな)と割り切って手入れが面倒じゃないボールベアリング無しの樹脂製スリーブ入りを選択している。まあこの辺は、毎週、毎夜のように行くシーバス用のリールで毎回塩抜きとか面倒だけど、年に2、3回とかのシイラカツオ船ならその時ぐらいは塩抜きするかっていう感じかと。

 ローター周り続いて、ベール反転機構とベールスプリング。

 なんてことはない、3巻きになって、多少耐久性ありそうとはいえ普通のベールスプリング、そして2つのバーツでベールを反す、ベール反転機構。特に変わったものが入ってるわけじゃないけど、特徴としてはベールスプリングがベールワイヤーのお尻側に入っていて、ベール反転機構がベールアーム側に入っているということか、これ5500ssとも4400ssとも共通の設計。って書くと550ssオーナーから嘘つけ、とお叱りをいただきそうだけど、そのへんの話はまた別途まとめてみたいと思っております。5500ssと4500ssはローター周りも含めて共通の設計が多い兄弟機です。でも550ssと450ssは必ずしもそうじゃないのよね。

 で、ローターの下にはストッパー関係が鎮座している。

 ローターの下には当然雨水も入ってくれば、水没させれば塩水も入ってくる、この位置に瞬間的逆転機構を入れているスピニングをこれまで口汚く罵ってきた。アホかと。濡れたら困るんなら大森やカーディナルCとかのように本体内に入れておけよと。でもPENNのこれは何の問題もないと思っている。

 見たら分かると思うけど、真鍮ステンレスアルミと濡れて困るような素材の部品はまったく見えない。下に鎮座しているステンレスボールベアリングへの浸水が”グリスシーリング”で防ぎきれなかった場合、ベアリングが錆びて交換とかになるけど、水没したところで、この部分に塩水かぶったって当座は別にどうともならん。だから別にこのリールにご大層な防水性能なんてのは必要ではない。常々書いているように瞬間的逆転防止機構なんていう、利点がしゃくったときにガチャガチャいわないぐらいしかない、水で濡れると困る機構を水辺で使う道具であるスピニングリールに入れるからアホみたいなリールになってしまうんである。馬鹿くせぇ話である。

 上の写真の手前に見えている真鍮の部品はベール反転の蹴とばしである。樹脂でもいけるだろうけど、そこはPENNしっかり金属にしてある。ただ見ての通りローターブレーキの類いは付いていないので、キャストがぶれると意図しない反転がガッシャーンと起こるときはある。ちょっと適切な場所がないのでマジックテープ貼り付け型のローターブレーキ追加は難しく、やるなら大森式に薄い銅板でも曲げてれいの“簡易ローターブレーキ”を追加するほうが簡単かもだけど、もっと簡単で抜本的な方法として、邪道ではあるけど、ベール反転機構の部品2つを取っ払ってハンドル回ってもベールが返らないので手で返す”マニュアルベール反転機”にしてしまうという処置がある。実際ワシ4500ssはそれで運用している。ワシ、ライン放出の調整は右手人差し指で行ってハンドルでベール返すのも、ライン調整左手でしてそのまま左手でベール反転させるのもどちらもできるので使える外法。まあ、正道はぶれずに真っ直ぐ投げておけば意図しないベール反転は起きないはずで、キャストがきちんとできるように練習しておけって話なんだろう。でも人間たまにミスるもので、良いところでミスるとムカつくので、外法をもってことをしのいでおるしだいであります。

 分解進めていくときにストッパーを外すときにはお作法があって、下の写真の様にドックの金属板の爪でラチェットをはさんだまま2つの部品を一緒に抜いてやらないと外れない。填めるときも同様。で、このストッパーは真鍮でガッチリしてるのでとても丈夫。ドックの爪が経年劣化で割れることがあるので予備部品は確保してあるけど、ラチェットはなかなか壊れない部品で、結局スピニングリールで強度がいるのは、アワせ喰らわしたり、魚が突っ走るのを止めたりというときに逆回転を止めているストッパーと、高速で魚が突っ走ってるときに作動しているドラグ周りであり、それ以外の部分の強度なんてそんなにいらんと思っている。ギアなんて亜鉛と真鍮のハイポイドフェースギアで充分、ボディー剛性?樹脂で結構、剛性とか五月蝿いこと言ってハンドルもゴリ巻きで壊すヤツはスピニングの使い方が分かってないってだけでPENNなら純正品で充分。ゴリ巻きが必要ならそもそも強度が出しにくいスピニングにこだわらずベイト使えって話で、投げるのが難しいっていったって、それをどうにかするのが”釣り人の腕”ってもんだろうと思うし、今時”DC”とか最適なブレーキを制御してくれる機構とかもあるんだろ?ベイトで投げとけって。スピニングはゴリ巻きせずにポンピングで竿で稼いだだけ巻き取る。基本のキだとワシャ思うんじゃけど、磯に乗って記録魚狙うような人除いて大型魚狙いでベイトでキャスティングってなぜか流行らんのよね。

 という感じで、それほど複雑なリールじゃないのでサクサクと分解できる。難しいところも特になく整備性は極めて良いのがPENNの魅力でもある。

 今回樹脂製本体ということで、本体の汚れはCRC吹いてぬぐっておくぐらいにとどめている。パーツクリーナーはそこそこ強力なので、金属本体でも塗装剥げたりはやらかしているので、使う時は注意した方が良さげ。樹脂製本体は塩水でも錆びることがないのは大きな利点。

 ラインローラーのベアリング始め、ボールベアリングは針で突っついてCクリップ外してシーリングが外せるものについてはハズしてパーツクリーナーで洗浄してから、耐塩性重視のマキシマグリスをぶち込んでやる。これで多少は塩に耐えてくれると期待したい。でもまあラインローラーのボールベアリングはマメに塩抜きしないとダメだろうなとは思う。

 組むときは、金属パーツにはグリス盛り盛りでもってやり、ドラグにはPENN純正を盛ってやったので、ドラグもバッチリだろうと思う。

 基本的には、放置でも大丈夫なリールなので、ラインローラーのボールベアリングの塩抜きはマメにしておくべきなんだけど、その他にはドボンと水没させてプクプク内部に海水が入ったとかがなければ、これといって分解整備の必要がないぐらいで、海から帰ってきたらシャワーとかでジャバジャバ洗って乾燥、ハンドルノブの根元、スプール外して主軸の根元への注油、ラインローラーへの注油ぐらいの外回り注油だけで5年、10年と好調に使えると思います。スペアスプールも2個付いて、戦闘能力は充分。これはお買い得でっせ。ベールスプリングは交換必要になるので須山スプリングさんに作ってもらうか自作しましょう。

 5500ssjと5500ssも同様に分解整備。

 ”勝手にチャリティーオークション”用の4500ssj、5500ssj、お年玉読者プレゼント用5500ssもスペアスプールは2個付きです。ただ、プレゼントの5500ssにつけたスプールのウチ1個は純正ではない樹脂製のパッドが入ってます。調整幅は増えた感触だけど耐久性とかはどうなのか使ってないのでぶっちゃけ分からんところ。たまにPENNのドラグパッドをフエルト製に換装してあるのとか目にするけど、PENNのHT-100という信頼性の高いドラグパッドを調整幅増やすため程度の理由でわざわざ交換する意味が分からんなと思っちょりますが、何かワシの思いつかん利点あるのかも。ないのかも。


 ってことで、瞬間的逆転防止機構が搭載される前の4桁スピンフィッシャーって、使ってて問題のない機能、丈夫さ、耐腐食性、メンテナンスのしやすさ、特筆モノのドラグの良さ、モロモロ勘案すると、買ってずっと使える一番面倒のないスピニングだと思うので、まあ評価基準が違えば自ずと答はまた違うんだろうけど、海での釣りが多くて、雨や波飛沫をかぶっても釣りをして、毎回全バラするほどまめじゃないけど、道具いじるのが好きならば、4桁スピンフィッシャーはそんなあなたのためのスピニングです。お年玉希望、オークション参加お待ちしております。

※お詫び:普段からクドクドと同じことを繰り返す芸風ではありますが、今回珍しく風邪ひいて(38度以上の熱が出てたのでインフルやコロナだったかも)熱にうなされつつ書いてたせいか、さらにネチっこく妄執的な書きぶりになっておりますことを伏してお詫びします。健康って大事。


<ご報告>”勝手にチャリティーオークション”無事終了。募金しますというのがオークション参加者の財布の紐を緩める免罪符になったのか、予想より高額で落札いただきました。5500ssjが9,801円、4500ssjが11,001円とスプール2個付きとはいえ相場5~7千円のところ1万円前後まで値が上がり正直「募金するとか書かずにしれっと老後資金の足しにしときゃ良かった」と邪な思いもあったりなかったり。いずれにせよオークション参加者の皆様、落札者様ありがとうございます。2月20日に早速一番手軽なYahoo!基金の「令和5年能登半島地震 緊急支援募金」に20000円+1000円の21000円募金しておきました。売上合計20802円ですが募金が100円単位なので面倒くせえのでワシからもチョイ出してます。ついでに書くと売上金全額ワシの懐に入ってくるわけじゃなく手数料Yahoo!様にもってかれますが、それもワシからの寄付ぐらいのつもりでいかせてもらいました。プリントスクリーンで切り貼りした画像ぐらいナンボでも加工可能ないまどきではありますが、ちゃんと寄付しておりますのでそこは信用いただければと思います。被災された方々の日常が一日も早く戻り復興するようにお祈りします。