2017年5月13日土曜日

ほの暗い水の底では

 あからさまに食ってきたようなスコッという感じのアタリが浮子にでて、よっしゃ来た!とばかりにアワセをくらわせると、あにはからんやハリがかりせず空振り、というのをヘラ釣りでは「カラツン」と呼んで、いかにカラツンをちゃんとかかる「食いアタリ」にするか、そのためにハリスの長さ調整やら餌の硬軟からありとあらゆる手を工夫しているのが今の管理釣り場や釣り堀におけるヘラ釣りの「技術」のかなりの重要部分であるように見受ける。

 ヘラ釣り初心者の私もカラツンには悩まされる。正直、ハリがかりしたときのアタリとの違いが全くもってわからない。ほんとにヘラブナが餌くわえてるのか?と疑問になってくるぐらいで、モツゴとかのジャミアタリなんじゃないのかとも疑ったりもするし、実際にモツゴの多い自転車で行く管理釣り場ではモツゴが釣れてくるけど、ヘラの多い「箱」の方ではアワセが決まるとヘラが釣れてくるのでジャミもたまにはあるかもだけど、どうも「箱」ではカラツンの正体はヘラブナで間違いないように思う。管理釣り場のほうでも「ジャミばっかやン」と思って油断している時に隣の釣り人がヘラ釣ったりして、ヘラのアタリも混ざっていたくさい。
 連発でことごとくカラツンになると、頭に来きてイーッとなると同時に水中に頭つっこんで実際に餌の周りでなにが起こっているのか見てきたくなる。スレがかりするのもあるから単にハリスに魚体が触れてるだけの「糸ズレ」とかだったっりしないのだろうかとか、疑い始めるときりがなくなる。

 昔、関西には「ヘラブナ喫茶」なるものがあって、喫茶室から釣り堀になっている大型水槽を横から眺められるというものだったと記憶している。「イレブンフィッシング」だったかで、その水槽で水中のヘラの動きと浮子の動きを同時に見せるというのをやっていた。ヘラなど興味がない少年時代に見たのを今でも記憶していたのは、当時、ヘラが餌を吸ったり吐いたりするのが浮子の小さな上下になって現れるので、吸ったときにあわせないとかからないとかまことしやかに語られていたのが、実際見てみると、ヘラがその場で餌を吸っても吐いても浮子には何の動きもなく、ヘラが餌をくわえて移動して初めて浮子にアタリが出たというのが意外で、水中のことを見てきたように語る釣り人の、いかにいいかげんであてにならないことかと印象深かったので憶えていたのだろう。

 最近でも、高級リールの軽い回転だと魚が食う前の寄ってきた水流変化による「前アタリ」を感じることができる、とか水中のことを見てきたように語る釣り人を、正直「またなんかしょうもないことを言ってるワ」ぐらいにみている。バスでもシーバスでもイワナでも追ってくるのが見える食ったのが見える状態で釣ったことがある人間から見れば、ルアーと同じスピードで追ってきて食った場合には、竿先にも手元にもラインテンションにも何の変化も現れない。見えてるからアワせるけど、見えてない状況で同じような食い方をされたら全くアワせることができない。
 竿先やらに変化がでるのは、食ったうえにハリがちょっとかかって、魚が首を振って初めて「アタる」とうすうす思っていたら、「ザ・シーバス」というシーバスの水中でのルアーに対する反応を納めたDVD付きの書籍が2006年に出て、そのことを裏付ける映像に大いに納得したものである。
 「前アタリ」があった時点で、賭けてもいいけどルアーは口に入っていると思う。口に入って魚が止まってラインがちょっと引っ張られて、高感度な高級リール様を通じて釣り人が「前アタリ」を感じると同時に魚も違和感を感じてペッと吐いているんだと思う。それでもしつこくルアーに食いついているうちにハリがどこかにかかって首振ったのが「本アタリ」として出る。というのが「前アタリ」の正体だと思っている。誰か水中撮影してみてほしい。

 ちなみにルアーが口に入っただけの、竿先とかにはアタリが出ないはずのアタリを出す裏技はあるようで、クランクベイトなりバイブレーションなりのブルブルとルアーの動きが明確なルアーを使って、ルアーの動きが消えた瞬間にアワセを食らわすというのを聞いたことがある。まあ、私は見釣りを除けば、感度の悪い道具立てで釣り人も魚もハリがかかるまで気づかないようにするという方針なので実践したことはないのだけどね。

 話をヘラ釣りに戻すと、カラツンの水中映像である。今時小型の水中カメラとかもそれなりの値段で入手可能で、一般の釣り人がそういったカメラを使ってヘラブナの補食シーンをとらえた映像もYOUTUBEとかに投稿されていて結構ある。でも、なんちゅうか撮影がへたくそなのか、釣りがへたくそで写すべきものが何なのか分かっていないのか、いまいちカラツンが生じる状況が見えてこない。
 良い映像ないもんかなと探っていると、ちょくちょくとDVDの予告映像がヒットしてきて、どうも私がほしいカラツンが起こっているときの餌付近の映像をヘラ釣りの上手い人の釣っている水面の浮き映像と同時に見せているDVDがあるらしい。「ヘラ管理池REALカラツン大解明」というタイトル。

 3980円と、浮子よりもお高く、安竿2本買える値段だけど、これは買っておくべきかなとアマゾンでポチッた。
 届いたのを早速視聴して、安い買い物だったことが判明。もろにカラツンが起こっている状況の水中。頭を池に突っ込んで見てきたかったその映像が納められていた。
 詳しい内容は買って見てあげてほしいが、高活性時のヘラが集まった状況下で、とにかく想像していた以上に餌がヘラの口に入りまくっている。その上で吐きまくっている。
 浮子にアタリが出ないその場でハリの付いた餌を吸って吐いてとか、溶けた餌やハリから落ちた餌は警戒せず吸っているのは、ある程度想像してた状況だったけど、釣ってる熟練のヘラ師の方が「糸ズレでしょう」「糸ズレかな」と言っているような浮子にモヤモヤとした動きが出たときにも、ものすごい高い確率で餌を口にしているのには驚いた。今時の浮子は吸った角度にもよるけどちょっと吸って吐いた程度でも結構動く。でも絶対それでアワせてもかからんだろうという感じの早いタイミングで吐き出している。そしてカラツンの時もハリスの抵抗を感じているのか何なのか速攻で吐いてるのもあったし、下から上向いて口を開けて食っててアワせても口から餌が抜けていたのとか、正直おそれいった。何十年ってヘラを釣ってきたであろう熟練の釣り人も水中の真実のあまりの予想外の様に衝撃を受けているようだった。

 人の反応速度は、普通に目で見て大脳で判断してという場合、自動車免許の講習で習うと思うけど1秒近くかかる。素人のアワセの早さはこのレベルだと思う。見ていて「遅いって!」ともどかしくなるのもむべなるかな。
 これが、反復して修練を積むと、大脳の判断を経由せず小脳経由で短絡した反射的な反応経路ができて、0コンマ1秒以下ぐらいまで早く反応することができるようになるとされている。そういう事実が知られるまでは、陸上のスタートで0.1秒より早くスタート切った人間は「理論的にあり得ない反応速度」とされてフライング扱いになっていたとか※。「アワセ早いな~」と感心するレベルの熟練の釣り師とかも、0.1秒切るぐらいの反応速度なら普通に出ているんじゃないかと思っている。
 それでも人間がそのぐらいの早さで反応できるなら、養殖されている種だとはいえ、半野生種ぐらいのヘラブナがそれ以上の早さで反応するのは想像に難くない。しかも、実際にはラインがたるんでいる分が真っ直ぐになったっりする時間なんかも経て浮子に動きが出るわけで、反応速度の早さを競う方向ではヘラブナに勝てる理屈がない。

 だからこそDVDの中でも、ハリスを長くしてくわえたときに感じる違和感を減らす方向で調整して、再度連発に持ち込んでいたように、ハリスから餌から、仕掛けからテンポからなにやらかんやらを調整して、ヘラが吐き出すまでの時間を稼いで、浮子が動いてアワセが決まるまで口に餌を入れておけということにつきるのだろう。
 0.1秒も稼げばアワセは決まり始めるんじゃないだろうか。たぶん、ハリスの数センチの違いとか、餌の食いやすい堅さの微調整とか、上手くいっても100分の1秒単位でしか時間を稼げないかもしれない。それでも、そういう微妙な違いを他の要素も加えて重ねていって、なるべく長い時間ヘラの口に餌をとどめて、なるべくたくさんのアタリを出していって、結果ハリがかりする「食いアタリ」を増やしていくという、ヘラ釣りの教科書に書いてある通りのことをやるのみだと再認識できた。

 水の中のことを見てきたように語るには、水の中を見てこなければいけないと肝に銘じておきたい。普段見えない水の中では結構驚くべきことが起こっている。
 今回みたDVDの映像のような現象が、すべての釣り場、すべての状況で起こっているとは限らず、いろんな状況はあり得るんだろうけど、一つの典型的な例として水中の状況を想像するには極めて有用な映像だったと思う。
 面白かったッス。新しい釣りを始めて知らないことだらけで、日々学ぶことがあって嬉しい。


※って書いたら、翌朝短距離の桐生選手が0.1秒切りのスタートで失格とのニュースがあり、いまだにそのルールが生きていることにあきれた。

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