2017年7月21日金曜日

最強のムシは、俺かお前か。-侵略的外来アリ オマケ1-

 世間のヒアリに関する報道は相変わらず的外れで、だんだん飽きてきたのか、ネット上でも「セアカゴケグモの時と同じで、定着してもどうせ実害無いんじゃないの?」とか「在来アリがヒアリの定着を防ぐというデータもあるし、日本でも在来アリに期待」とか、危機感のないタカを食った意見が目立つようになってきた。
 環境省が「海外での死亡例が確認できなかった」ということで、そのアタリの表現を一段ユルく下方修正したりして、明らかに「ヒアリ報道あきたし、どうせ騒ぐほど大変でもないだろう」という受け止められ方に変化してきており、ヒアリ対策の重要性を伝える報道が狼少年状態になっている気がする。

 セアカゴケグモと侵略的外来アリでは人間と接触する機会の多さがまるで違うって!

 セアカゴケグモは日本で言えばオオヒメグモとかの公園のトイレの端とか使ってない倉庫の下の方の隅に巣を作っている地味な蜘蛛のような生態をもつ仲間である。セアカゴケグモも見つかるのもやはりそういった場所や側溝外したU字溝の中とか同様に暗い乾いた空間の隅の下の方である。
 ハッキリ言って、オオヒメグモとかヒメグモの仲間に刺されたことある人間が日本にどれだけいるか?ほとんどいないはずである。だから、そもそもセアカゴゲグモについては、移入先で生態が変わって積極的に人間を噛みまくるような変化が生じない限り人的被害が生じることはあまり多くないと予想できたし、実際被害は生じていない。同じゴケグモの仲間には悪名高いブラックウィドースパイダー(黒後家蜘蛛)がいるぐらいで毒性自体は強いにもかかわらずだ。
 一方、在来のアリに攻撃されて噛まれた人間なら日本にもいくらでもいるだろう。ヒアリやアルゼンチンアリによる刺されたり噛まれたりの被害は当然想定されるべきものである。それもヒアリは庭やら公園やら田畑やらの開けた人間が利用するような場所に営巣し、アルゼンチンアリに至っては人間の家に入ってきて屋内でも営巣する。人間活動と重なる営巣地の傾向から接触機会は在来アリより大きくなると警戒した方が良い。

 「在来アリがヒアリの定着を防ぐ」というのはある程度期待できるだろう。

 これまで、定着してこなかったのも人知れず在来アリが定着を防いできたのかも知れない。
 ただ、多くの人がその期待の根拠としているのは、兵庫県立人と自然の博物館の解説にもあるアメリカでの実験結果で、
 「最新のフロリダでの野外実験の結果は示唆に富んでいます(Tschinkel & King 2017)。Tschinkelらは、「撹拌区」、「在来アリ除去区」、「無処理区」を設置して、交尾した有翅メスの新規加入からの生存率を比較。有翅メスが定着して120日後の生存率は0.5%(5/980)、初期コロニーを形成してから30日後の生存率は1.3%(5/400)。最後まで生存していた5サンプルは、すべて「在来アリ除去区」でした。また、初期コロニーを移植した操作実験でも、在来アリを除去した区ではヒアリが増え、108個のうち在来アリを除去した区では21の大きな巣が形成され、逆に無処理区では2コロニーだけが生き残りました。」
のうち、特に交尾したヒアリ有翅メスが最後まで生き残ったのが「在来アリ除去区」なのを引用して、逆に「在来アリがいればヒアリは定着できない可能性が高い」と主張しているように見受けられる。

 だーかーらー、侵略的外来アリは結婚飛行後の単独女王じゃなくて家来をひき連れてやってくる複数女王性の「分巣」がやばいんだって!

 だとすると実験結果前半の「交尾した有翅メスの新規加入」ではなく後半の「初期コロニー移植」の結果をこそ見るべきで、「無処理区」でも全滅じゃ無くて2コロニー生き残ってて「在来アリ除去区」ならボコボコと大きなコロニー作るという結果を頭に置いて、危機感持たないと、と思うのである。
 日本のような移入先でまず考えるのは、多女王性のヒアリの女王と働きアリを含んだ「分巣」によるコロニーでの侵入である。
 そういう視点で見るとフロリダでの実験結果は「コロニーでの侵入なら在来アリがいても全滅しない」というデータが示されていることになり。ヤツらの侵略性の高さが示されていることがご理解いただけるだろうか?
  基本的な認識が間違っていると、データがしっかり読めない。人は自分に都合良くデータを読みがちである。割と識者っぽい人まで在来種に過剰な期待をしているようで困ります。

 とはいえ、在来アリがヒアリなど侵略的外来アリの侵入を防ぐ効果はあるていど期待できるので、在来アリを無駄に殺すことの無いように、という識者の意見を踏まえて、毒餌は外来アリが見つかった場所のみにして、トラップによるアリの種類の監視に舵を切ったのは妥当な判断だと思う。在来アリをむやみに殺すなということは浸透しつつある。
 この辺の舵切りは、国立環境研究所の五箇公一氏も入っての決定のようで、信用して良いように思う。五箇さん、見た目はワイルドな感じだけど、書かれる言葉は分かりやすく正直で丁寧で理解し腑に落としやすい。原理主義的な極論に走らず、予防的な慎重さを持ちつつ現実的な対応策を進めてくれるものと期待。

 NHKにもちょっと期待で、明日22日(土)19:00~19:45「地球ドラマチック 増殖中!アリ!大地を支配!毒針の脅威」と過去のヒアリ回を再放送するようだ。NHKの生き物番組は要チェックでしょう。

 
 でもって、予告していた ジャスティン・スティミッド博士が主に北米大陸の昆虫に「刺させて」痛みをレベル1~4に分類しつつ選出したトップ10の主なところの、
 「ちなみにミツバチが5位でレベル2.0。
 ベストというかワースト3は、3位アシナガバチでレベル3.0。
 2位オオベッコウバチのレベル4.0は「電気ショックが駆け巡るようなすざまじい痛み」。
 堂々の1位はサシハリアリのレベル4.0+「純粋な激痛」だそうである。」
あたりについてのオマケ。ゴリゴリ書きます。

 サシハリアリは現地名のパラポネラや二つ名のバレットアント(弾丸蟻)の方が生物好きにはなじみがあるかも。南米のある部族では通過儀礼としてこの蟻をいっぱい入れた袋に手を突っ込んで我慢するというチビりそうな儀式が行われてきたとかで有名。

 オオベッコウバチは二つ名の「タランチュラホーク」がめちゃくちゃ中二で格好いいのだが、二つ名のとおりオオツチグモを狩る狩り蜂でその獲物の中には世界最大の蜘蛛の一種、ルブロンオオツチグモも含まれる、という生態もめちゃくちゃ格好いい蜂。日本のベッコウバチもオニグモとか狩るけど刺されるとめちゃくちゃ痛いという噂で蜂の仲間で世界最大を誇るオオベッコウバチが「電撃的な痛み」というのも納得である。脱線だけど無脊椎動物で二つ名が格好いいのって結構いて、個人的にはベストスリーは今出たタランチュラホークとジェリーフィッシュライダー、デスストーカーかなと、ルブロンオオツチグモのゴライアスバードイーターもなかなかにイイ。興味のある人はウィキッたりしてみてね。

 3位のアシナガバチ、5位のミツバチは経験あるので割と納得。アシナガバチは幼虫を食べるために巣を襲撃したりもしてたので結構刺されたけどズキズキに痛む。心臓の鼓動が響くようなズキズキ感。5位のミツバチは丸っこくてかわいらしい見た目で、クローバーの草むらでお茶して休憩するときとかに花の蜜を集めてたりするのを、ある時手の上に乗せてもちょこちょこと歩くだけで攻撃してこないので、どのくらいで攻撃してくるかと摘んでみたら刺された。刺されたのも痛いけど、ミツバチの針は返しがついていて刺した針が皮膚に刺さったまま残って、抜けた毒袋的な器官がドクドクと脈打って毒を注入し続けてくるのが恐ろしい。引き抜くのも痛い。温和なミツバチを怒らせて死の一撃を使わせてしまったことも、無口でおとなしい村娘に抵抗されないからとちょっかい出してイタズラしたら刃傷沙汰になったような罪悪感。

 アシナガバチのクビレたセクシーなボディーラインは「危なそう」と感じて、ミツバチやらクマバチの丸っこい体には「可愛らしさ」を感じていたんだけど、これって実は重要な視点だったようで、社会生の蜂や蟻が含まれる狩り蜂から進化したグループがハチ目細腰亜目となっているように「腰が細い」、ついでに首も細いというのが、他の昆虫などを狩るのに、毒針と顎を使って攻撃するときの関節の可動域を大きくするための適応、と図書館でのお勉強で学んだ。
 首が細くなって固形物がのどを通らなくなって、肉団子を与えた幼虫から液体状の食料を吐き戻してもらいながらも、アシナガバチやスズメバチは狩りをするためにキュッボンキュッボンなボディーラインを誇っていて、刺すのは最後の手段であまり使わず餌は蜜と花粉なミツバチなどはグループの中ではクビレの目立たない丸っこい体型なのだと思う。意外に人間のカワイイという感情は経験則なのか文化なのかDNAに刻み込まれているのか、意味があるように思うこのごろ。

 スティミッド博士の作ったランキング、アメリカの昆虫中心なのでだろうけど、スズメバチとかがランキング低いのでやや不満。アメリカのホーネットとか呼ばれるたぐいのスズメバチはたいしたことないのか?だからキラービーの侵略とか許してるのか?とか思ってしまう。
 日本のスズメバチ達はエグい気がする。最大の蜂こそオオベッコウバチに譲るけど、最重量とか最凶の蜂なら日本のオオスズメバチなのではないだろうかと個人的に思っている。クワガタ取りに行った森の中で昼間樹液にたかっている働き蜂サイズの2まわりぐらいはデカい女王蜂が、ガサゴソ音しているのでカブトかなと近寄っていった地面から顔を出したときのオシッコちびりそうになった衝撃は忘れがたく記憶に残っている。
 オオスズメバチの他にも、茶色というより赤と黒という邪悪な色をまとったチャイロスズメバチとか、女王が他の種のスズメバチの女王が作っている巣を女王同士の一騎打ちで殺して乗っ取るなんていう生態から、女王からして戦闘用に分厚い外骨格で武装していたりする武闘派なんだけど、こいつがオオスズメバチより刺されると痛い説もあったりして、スティミッド博士には日本のオオスズメバチとチャイロスズメバチも是非試して評価してほしいところ。
 スズメバチ刺されたことないので評価できないのがちょっと残念である。初心者向けっぽいキイロスズメバチぐらいに刺されておけばよかった。スズメバチも世間で思うほど攻撃的じゃなくて割と巣の下から観察してても襲われなかった。

 あと個人的に刺されて痛かった虫はコバンムシ。ちっちゃなコオイムシが穫れたなと思ってふつうに摘んだら即刺しやがって、これが蜂とはまた違う痛さで毒じゃなくて火箸とか突っ込まれたような物理的な直撃の痛さ。同じカメムシ系では陸生のサシガメの仲間もやっぱり痛いそうで、そのあたりも博士にはお勧めしておきたい。
 世間で言われているほど痛くなかったと感じたのは、イラガの幼虫とムカデ。どちらもしばらくヒリヒリした程度。この辺の痛さの感じ方は個人差とか「相性」もありそうで絶対的な評価って案外難しいのかもしれない。
 どれが1番か?単純な毒の強さなら、単位あたりどれだけのネズミを殺せるかで示す「MU(マウスユニット)」に一回に注入される毒量を掛ければある程度示せる。
 でも「毒の強さ」=「刺された痛さ」ではない。痛くもなく麻痺して死んでいく毒もあれば、三日三晩苦しみ抜いた末に死ぬような毒もある。

 
 「最強は何か?」は、どんな分野でも熱く語られがちなネタである。
 最強の動物は何か?虎かライオンか、いやいやアフリカゾウやカバのほうが大きくて強い。大きければ強いならシロナガスクジラだろう、いやシロナガスはシャチに狩られるからシャチだろう。
 そんなもん、シロナガスクジラとアフリカゾウがどこで戦うっていうんだ?陸上ならシロナガスは自重を支えることさえできずに死ぬだろうし、海の中ではアフリカゾウは長時間は戦えまい。波打ち際ででも戦わせるか?どちらも戦いたがらないだろうし決着なんかつくのか?シャチがシロナガスクジラを狩るといったって、群れで狩るので1対1の強さの比較にはならないだろう。ちなみにシャチがクジラを狩るときには、多数でクジラの上にのしかかって息継ぎをできなくさせて溺死させるという戦法をとるらしい。溺死したクジラの口に突っ込んで舌から食い破り、辺り一面文字通りの血の海に染まるとか聞く。

 戦わせる場所やらの条件にもよるし、戦わせる個体がその種の中で強いか弱いかの違いもあって、直接戦わせることができたとしても、必ずしも最強がどの種かなんて決定できないはずである。
 勝負は時の運もあり、下駄を履くまでわからんのである。

 にもかかわらず、人は最強を知りたがる。格闘技の世界でも「最強の格闘技は何か?」は永遠のテーマである。
 総合格闘技の世界では、打撃にあまり付き合わず関節技絞め技で絡め取るグレイシー柔術が一世を風靡したと思ったら、ヒョードルやヴァンダレイのように立った状態で殴りまくる打撃の強い選手が盛り返し、最近の傾向としてはレスリング技術の高い選手が上手く有利なポジションを確保して相手の攻撃を抑えて勝つ、というように生物の進化と同じように、常に追いつ追われつ変化していっている。
 最強の格闘技、最強の格闘家なんてものは決定し得ない。その時々の勝者と敗者のみが存在するだけである。
 それでも人はそれを知りたがり、8月にも総合格闘技団体「UFC」の現2階級王者コナー・マクレガーとボクシング元5階級王者のフロイド・メイウェザーが闘う。
 ボクシングルールでやるならマクレガーに勝ち目なんてないんじゃね?と分かったふりしてややしらけた態度を取りつつも、実は正直たのしみでならない。

 「最強の虫」は何か?

 この問いも、ムシ好きならずとも男の子ならガキの頃には誰しも抱く疑問だろう。図鑑とかにはカブトムシが最強のようなことが書いてある。
 でも、少年はカブト・クワガタを飼い始めると、カブトムシ最強説に疑問を持つようになる。
 夜のうちに何が起こったのかは分からないが、朝になるとカブトムシが胸部と腹部がちょん切られた状態で死んでいる。どうもノコギリクワガタが犯人(犯虫?)のようだ。
 なぜ最強のはずのカブトムシがノコギリクワガタに負けるのか?
 疑問に思って観察していると、確かにカブトムシは木の上や金網など足場がしっかりしている場所ではノコギリクワガタを引っぺがして裏返す。でも日中潜って隠れられるように飼育箱に敷いてあるオガクズの上やグジュグジュのスイカの皮の上では踏ん張れる足場がなく、ノコギリを容易にはひっくり返せず、逆にガッチリとノコギリの湾曲した大顎で挟まれることが結構ある。
 挟んだとしても通常はそのうち離して事なきを得る。
 でも、せまい飼育箱で一緒に飼っていると、そういったケンカが発展して挟み切ってしまうところまでいくこともあるようだ。
 ひっくり返して落とせば勝負がつき、殺しあいまでする必要のないクヌギの木の上では、カブトムシ最強かもしれない。でも、せまい飼育箱の中ではノコギリクワガタに殺されてしまうのである。

 とりまく状況が「ルール」が違えば結果が違う。

 じゃあルールを決めて闘わせよう!というのは当然の成り行きで、田舎の男の子なら誰しも経験しただろう、カブトクワガタをけしかけて1対1で闘わせる遊びから、本格的に金を掛けてやる中国のコオロギ相撲とかまで各種ある。

 その手ので、記憶に残るぐらい面白かったのがテレビの「トリビアの泉」で視聴者からトリビアの種を募集して実験するコーナーで「世界のカブトムシが闘ったら一番強いのはホニャララカブトムシ」という「ホニャララ」部分を決めるために、世界各地のカブトムシを闘わせた回。
 切り株に2匹を乗せて闘わせ、ひっくり返すか切り株から落としたら勝ちというシンプルなルール。
 選手紹介からの煽り映像とかリングアナウンスとか完全に当時人気だった格闘技団体「PRIDE」のパロディーで馬鹿臭い企画に力一杯手間暇かけてて笑ったけど、勝負の行方は素晴らしくドラマチックで興奮した。
 世界の大型カブトムシのほとんどが2本の角で相手を挟みつけて持ち上げて投げるというなかで、日本の「カブトムシ」は長いのは1本の角だけなので挟みつけることはできないけど、その分角を下に突っ込んでひっくり返す闘い方に特化している。なんで日本のカブトムシだけ1本角方式なのか、たぶん自然の妙でアッと驚くような理由はあるんだろうけど誰か知ってる人いるだろか?
 とにかくこの1本角方式が、切り株の上から落としたら勝ちというルールにはマッチしたのか大善戦。大人と子供ほどの体格差がありカブトムシ界最強説もあるインドネシア産コーカサスオオカブトに、小さい体を潜り込まして押し切って勝利。決勝の3本勝負では惜しくも2-1でカブトで世界最大のヘラクレスオオカブトに負けてしまったが、1勝は得意の潜り込んでからの1本角でひっくり返した、という目を疑う勝利にスタジオもテレビの前も大ウケ。
 この時の日本産カブトムシがたまたま闘争心旺盛で大型カブトにも向かっていくような個体だったのかも知れないし、コーカサスオオカブトは噂では喧嘩っ早くて闘争的という話だが割とおとなしい個体だったり、逆に大きいけどおとなしい性格のはずのヘラクレスオオカブトは対ゾウカブト戦では切り株から落とした相手を追撃して挟みつけるぐらいの闘争心を見せていたりもした。
 カブトムシ最強を決めるだけでも、条件、個体の調子、偶然で毎回違う結果になるだろう。

 ましてや、全然闘争方法も違えば体のつくりからして違う蜘蛛や蠍、百足まで含めた「蟲」の最強など決めようがないはずである。
 毒虫を一つの瓶に閉じ込めて最後まで生き残ったヤツの毒を暗殺に使う「蟲毒」なんてのも呪術の世界ではあるようだけど、じゃあ生き残ったのが最強かというと、バトルロイヤル暗闇マッチでたまたま強かっただけで、1対1ならまた違うのかも知れない。

 でも、どいつが最強か知りたい。と思う虫マニアに、実際に一つのゲージに2匹を入れて闘わせた映像をDVDやネット配信で提供している業者がいる。
 片方が戦意喪失した時点で勝負アリとするのだが、カブトやクワガタはともかく毒虫や肉食昆虫の場合、相手が戦意喪失した時点で死んでるか食われてるかしてたりして、映像としてはかなり残酷で陰惨なもので、あまり趣味の良いものではない。
 でも、その陰惨なまでの闘いっぷりは暗い喜びを孕んでいて、見ていて目を離せないぐらいに、おもしろいのも否定できない。剣奴と猛獣を闘わせたような血生臭い見世物の系譜か?

 カブトクワガタの中では、パラオ産とかのオオヒラタクワガタやトリビアでも出てたコーカサスオオカブトが強くて人気。
 人間の格闘技の興行と全く同じだと感じるのが、主催者側が明らかにスター選手として売り出そうとしているのが目に見える選手がいて、そういう中でそれまで見たことも聞いたこともない昆虫が出てきたりして世界の広さを思い知ったりもした。
 「肉食昆虫界のラストエンペラー」のキャッチフレーズはヒョードル選手の「ロシアンラストエンペラー」のパロディー。5センチを超えるような大型種でまるでクワガタのような大顎で相手を噛み切るオオエンマハンミョウは南アフリカから。
 「インドネシアの悪霊」のキャッチフレーズで登場したリオックは、噛ませ犬になったオオカマキリやタランチュラの類いが可哀想になるぐらいの衝撃的な闘いっぷり。とにかくいきなり組み付いて食い始める。紹介当時はなんの仲間か学名もハッキリしない状態で「お化けコオロギ」とかも呼ばれていたけど、コロギスに近いようで「お化けコロギス」と最近は呼ばれているようだ。
 人間の格闘技でも体重差は大きな要素であるように「興行的」にはつまらないかもしれないけど、30センチを越えるような大型のムカデとかはやっぱり強い。
 でも、酢酸を吹き付けるという「化学兵器」で闘うビネガロンが意外な伏兵ぶりを発揮したりして、最強のムシの答えは無いのかも知れないけど、興味深く心引かれてしまうところだ。
 ちなみにビネガロンは和名をサソリモドキとつけられているぐらいで奄美沖縄に何種か棲んでます。ちなみに世界3大奇虫の1つで、残りはキャメルスパイダー(ヒヨケムシ)とウデムシ(カニムシモドキ)。


 話をアリに戻して、「最強のアリはどの種か?」を考えてみよう。
 
 まずルール設定だ。アリの場合1対1でタイマン張る場面は重要では無いので、1対1でもサシハリアリのような殺傷能力に長けた種もいるし、ジバクアリのような化学物質で爆散して敵を倒す猛者までいるのだが、アリの闘いといえば群れと群れ、コロニーとコロニーの団体戦での強さを評価するべきではないかと思う。
 ただ、実際には同じような地域に棲んでいるアリは、それぞれ棲み分けして棲んでいたりして、そういう意味では現存するすべての種が「勝者」というのが正しいのかも知れない。
 ある者はヒアリのように水没したりもする環境にあわせて、コロニーを「分巣」して環境変化にあわせて素早く空いた土地を利用してコロニーを拡大していく戦略をとり。ある者は、植物と共生し丈夫な城で敵から身を守る。またあるものは巣を持たずさすらいながら大群で獲物を狩っていく、中には農耕をして巨大なコロニーの食欲を安定的に満たすのもいる。
 単純に毒が強ければ、攻撃性が強ければ程度で他を駆逐するほど強くなれる訳ではない。

 南米の密林では、大群で動物を襲いながらさすらう「グンタイアリ(グンタイアリ亜科のアリ)」の仲間が生態系の頂点に君臨する最強の捕食者として恐れられている。密林の王者ジャガーも「グンタイアリ」には関わりあいたくないようで出会うとケツをまくるらしい。
 それでも、最強のアリの呼び声高いグンタイアリを団体戦で退けるアリもいるようだ。ハキリアリである。ハキリアリは木や草の葉というどこにでもあって入手しやすいものを集めて、巣の中でキノコを栽培することで、安定して増え、大群を維持することができる。団体戦では強固な巣の防御とグンタイアリにも負けない大群による物量戦でグンタイアリを打ち負かすとか。
 単独女王で巣にガッチリ投資して安定的に群れを維持するという方法が良いときもあれば、季節等で変化する環境にあわせて、多女王性で分巣して素早く分布域を広げていくのがマッチすることもある。自然は多様な環境を持ち、生物は多様な戦略をとる。どれも一長一短ある。
 相互の関係においても、それぞれが得意な戦術を駆使しており、1つの種が他を滅ぼしてしまうようなことにならないように、天敵となる他のアリに対する対抗手段を長い進化の歴史で得ている。

 逆に、移入先ではその種にたいする特別な対抗手段を持たない場合、在来種が駆逐されてしまうようなこともあり、そのことが原産地では水没するような川岸の木の上においやられて細々と生きているアルゼンチンアリを最強の侵略性外来アリとしていたりする。

 アリの闘いが団体戦だとすると、コロニーの巨大さ個体の多さは「強さ」に直結するので、アルゼンチンアリは最強のアリの候補の一つにあげて良いかもしれない。全滅するまで闘うルールで物量戦で押し寄せてくるアルゼンチンアリの超巨大コロニーに勝てるアリなどいないだろう。

 日本で特定外来生物に指定された4種は、いずれも北米から南米の南米中心に原産地を持つアリなので、南米のアリがどうも強そうな気がしてしまうが、同じように生物多様性が豊かで生存競争が厳しいだろうアフリカや東南アジアのアリもまたやばいのがいるのではないか?と世界の侵略的外来生物ワースト100を調べてみるとアリとしては「侵略的外来アリ四天王」のほかにアシナガキアリ(アフリカorアジア)、ツヤオオズアリ(南部アフリカ)というのがいて、なんかわからんけど、アフリカにもやばいのいるんだなと思って、ちょっと調べてみた。この2種はすでに南西諸島で定着している。それもずいぶん昔からのようで、今更駆除すると今の生物群集のバランスが崩れるんじゃないかという懸念もあって、特定外来生物入りから外したようである。
 アシナガキアリなんて原産地がアフリカかアジアかも分からなくなるぐらい古くから人間の移動と共に分布を広げていたようで、たぶんアフリカからの移入種はアフリカ-ヨーロッパ間とか陸路つかってた大航海時代以前から移入が進んでたんだろうと想像する。
 日本への移入も、東南アジアとの船での貿易の時代に入り込んで、元いた在来種との混乱をへていまの生態的地位に落ち着いたのだろう。
 移入種が、他を圧倒して爆発的に増える、増え続けて他の種を駆逐する、あるいは優占種となる。という結果になるか、定着できずに在来種にシャットアウトされるか(日本のスズメバチ類はセイヨウミツバチの野外での定着をシャットアウトし続けている)、それとも移入はしたけど地味に隙間産業的に生き残るか、最悪生態系を引っかき回すだけ引っかけ回して在来種に対抗策取られて激減するか、なんてのは結果を見てみないと分からない。
 だから、ショボそうな移入種であっても予防的に慎重に対処しなければいけないと考えられているのである。
 勝負の結果は下駄を履くまで分からないのだから。
 
 結局、既に定着しはじめているアルゼンチンアリが今後どんな影響を与えるのか、ヒアリは日本に定着するのかどうか、そのあたりは偉そうにご高説を垂れる識者様が現時点でなんと言おうと結局どうなるのかは分からないのである。

 未来予想は不可能。そう思っておかなければいけない。
 ゆめゆめ都合の良いデータの読み方で「在来アリが何とかしてくれる」なんて楽観視をしない方が良いと思うのである。

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