2017年7月28日金曜日

アリとコオロギ-侵略的外来アリ オマケ2-


 日本じゃおもしろおかしく歌い暮らして冬になってアリに助けを求めたのはキリギリスということになってるけど、欧州のオリジナルのお話では、セミが歌って遊び暮らす役だとか。
 そのお話について、ファーブル先生が昆虫記のセミ話の冒頭でボロカスにけなしていて、曰く、セミにはセミの一生があり夏の間にちゃんと卵生んで死ぬので冬に物乞いする必要などないとか、アリの野郎はセミがせっかく樹液を吸うためにあけた穴を無理矢理奪いやがるし、まだ命が残っている地面に落ちたセミをさっさと解体しはじめやがるし、ろくなことしやがらんとご立腹。まあ、おっしゃるとおり。
 ファーブル先生はハチでは単独で狩りをするジガバチ・ベッコウバチの仲間やハナバチの仲間を調べてたけど、大きな社会を作るタイプのハチはあまり趣味じゃなかったのか、さらに複雑な社会性を持つアリも昆虫記では脇役扱いであまりでてこなかった気がする。
 社会性昆虫の複雑な生態の謎とか、今時だからDNA鑑定的な分子生物学的手法とかが使えるので明らかにすることができるけど、ファーブル先生の時代にはそういうのがなかったので、昆虫らしくない「利他的」な行動とか意味不明で興味をそそられなかったのかも?でも、複雑怪奇な謎でも興味があればしつこくつっこんでいった人なので、単に好みじゃなかったということなのかもしれない。
 アリとキリギリスの寓話でイメージするような、勤勉だけが取り柄でコツコツ貯め込みやがって、芸術に理解もなく、困っている他者を理屈こいて見捨てるような冷酷な輩には「おまえなにが楽しくて生きてるんや?」と反感を覚え、キリギリスのような一芸に秀で短い命を燃やし尽くす生き方に共感してしまうのはファーブル先生含め天の邪鬼というものか。でもこんな寓話で「真面目にコツコツ働こう」なんて思ってしまう人間は、まず間違いなく体制側に搾取されると思うので気をつけましょう。
 でもそういう悲しい働きアリ的イメージと違って実際にには、働きアリもあんまり働いてない奴がいるとか、子孫を残すために、女王と雄アリの駆け引きは当然、女王とその娘である働きアリとの間にも実に興味深い駆け引きがあったりして、アリも結構コツコツやってるだけじゃないというのが最近の社会性昆虫の研究から明らかになってきている。実に面白い。
 タイトルがセミでもキリギリスでもなく、コオロギとなっているのは、古くは日本ではコオロギをキリギリスといい、とかはあんまり関係なくて、オマケで書くよ、と予告していた「好蟻性生物」に蟻の巣に住むコオロギがいるので、今回そのあたりの話だよということである。
 
 アリが外来種として入ってきたときにやばい理由として、関係する生物種も多くかつ個体数自体も多くて生態系の中で果たす役割が大きいから、それが外来アリによって在来アリが駆逐されるようなことになれば影響が大きいということが想定されると思う。
 よく「移入種による生態系の破壊」と表現されることがあるけど、多くの場合実際には外来種が在来種に置き変わったくらいでは、水や有機物の流れや気象など環境といった大きな「系」は壊れたりしない。実際には在来種を中心としていた生物群集が混乱して、在来種を餌に外来種が優先したり、いなくなった在来種を天敵としていた種が増えたりということはあっても、川は流れるしなにかしら花も咲く。私は場合によっては、一部外来種に置き変わってもよしとすべきことも実際あるのではないかと思っている。世界中から物を持ってきて便利な暮らしをしておきながら、そのことに起因するリスクを一切負わないとかあり得ないし、外来種の利用なんてのも稲作からしてそうであり一律に否定するべきでもないと思っている。
 ところが、外来種の中には本当に系までぶち壊すレベルの影響を与える生物がいて、さすがにそれは入れちゃまずいだろうと感じる。
 たとえば小さな島に移入されたヤギなんていうのは、島の植生根こそぎかじってしまって、草木も生えない雨が降ったら土壌が流れ出してしまうような環境に島の生態系を壊してしまうという例が知られている。全自動の草刈り機扱いで放流したソウギョが池の水草壊滅させたなんてのも割と聞く。

 アリの生態系での役割は、およそ土とかがある地面なら何らかの種類が歩いているぐらいで、個体数の多さから量的にも重要だと思われるのとともに、その役割の多様さ、関係する生物種の多さからいっても重要だと思われ、人的経済的被害を抜きにしても入れちゃまずい部類の生物であろう。特に植物との関係は場合によっては、植生を変えたりといった生態系の大きな混乱を伴う可能性があると思う。
 植物の種にはアリによって運ばれるものも多いし、アリは植物を食べる害虫を時に捕食し、逆にアリマキの場合のように保護したりもする。
 
 自然界に量が多いアリを餌として利用している生物も多く、アリクイ、アリスイ、アリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)なんていうアリ食らいのエキスパートもいる。アリスイはキツツキに近い鳥で、そういえばベランダから観察してたときにアオゲラもアリを拾っているような行動をしていた。トカゲやカエル、クモや他の肉食昆虫など小型の昆虫を餌とする生物ならアリも食べるだろうし、フライフィッシングでアントパターンなんてのがあるぐらいで、水面に落ちれば魚も餌とする。

 そんなアリたちと特に関係が深く、アリの巣に潜り込んで生活していたりする生物を「好蟻性生物」というそうで、図書館でのお勉強でも、アリヅカコオオロギとシジミチョウの仲間については詳しく解説されていて興味深く読んだ。アリは同じ巣の仲間どうしを体表の炭化水素で識別している。出会ったアリさんとアリさんがゴッツンコして触覚でコショコショしているのはその臭いを確かめあっているのだろう。
 なので、基本的には同じ種であっても違う巣のアリは巣に入らせないし、どこの馬の骨ともわからないコオロギやらチョウやらはアリの巣に入れない。
 でも、体表の炭化水素をアリと接触して自分に移して擬態してアリヅカコオロギなどはアリの巣に侵入する。他にもアリの巣に潜り込むのはある種のハネカクシ、アリヅカムシ、アリスアブ、アリシミなど結構いるそうで、アリの巣が、入ってしまえば外敵から守られて餌も豊富なことなど利用価値の高いことがうかがえる。
 アリヅカコオロギは、日本には実は何種類もいて、最近の研究で、1種類のアリに特化したスペシャリストとある程度潜り込む巣の種が幅広い何でも屋とその間のいろんな段階のがいるようで、同じようにみえるアリヅカコオロギなんていう地味な虫にも戦略の多様性が見て取れることが面白い。
 何でも屋は巣に潜り込むアリの種に幅があり、アリは近くにくると何でも屋を威嚇したりするので何でも屋はさっと逃げて難を逃れる。餌は巣の中で貯蔵してあったり捨てられた物を拾って食っている。
 スペシャリストはそのアリに警戒されずに口移しで餌までもらうぐらいの騙しっぷりで巣に潜入する。
 スペシャリストのアリヅカコオロギもなかなかの詐欺師っぷりだけど、この手の昆虫で究極なのはやっぱりシジミチョウの仲間だろうか。

 アリとの関係が深いという意味では、アリマキの仲間も深いけど、アリの社会に潜り込んで利益をむさぼる詐欺師的な行いということではある種のシジミチョウが一番だろう。
 シジミチョウの幼虫って、アリの巣の中で育つ種でなくてもアリに蜜を与えて護衛させたりするものが多い。いずれにせよアリと暮らすためなのか、シジミチョウの幼虫はふつうの芋虫とちょっと違う変な見た目をしている。プランターとかにカタバミという抜いても抜いても生えてくる日陰のクローバーのような雑草が生えてくるときがあるんだけど、抜いていると楕円の饅頭をつぶしたような緑のスライムっぽい生き物がひっついていることがある。これがヤマトシジミの幼虫らしく、頭も足も体の下面にあってパッと目見えず厚めの背中に守られている様はちょっとチョウの幼虫には見えずウミウシとかを思い起こさせる不思議ちゃんな生き物。
 おそらくそういう見た目になったのは、アリと暮らすうえで攻撃された場合の防御なのかもと思うが、その背中にはアリをたぶらかすための蜜線を備え、キューポラ器官なんていう溶鉄炉みたいな名前のアリを騙すための化学物質を分泌する器官とかも備えているのを知ると、そこまでやってアリに攻撃なんかされるのか?と疑問に思えてくる。目の悪いアリの触覚を騙すために触られるとアリと違う部分を隠すとかかも?
 解説を担当した研究者はシジミ類の幼虫を「最新鋭の化学兵器を備えた化学戦車」に例えていたぐらいである。
 解説では、ゴマシジミの仲間について詳しく説明されていたが、ゴマシジミ類がアリの巣の中で育つ場合にも大きく分けて2パターンあって、巣の中で働きアリに餌をもらって育つのと、恐ろしいことに巣の中でアリの幼虫やらをムシャムシャやってしまうというのがあるらしい。
 シジミチョウとアリの関係においては、シジミチョウの幼虫が蜜をアリに与えて、アリは外敵から守り餌を与えるというお互いに利益のある共生だと思っていたけど、ゴマシジミあたりになると、たちの悪い「巣」全体に対する寄生虫という感じである。
 しかも、直接幼虫を食うタイプより、巣の中で餌をねだるカッコウのようなタイプの方がアリ側の被害は大きいらしく、一つの巣で育つ成虫のチョウの数が多いそうだ。その分のしわ寄せでアリの幼虫たちが育つ数が減るという。
 巣の中では、化学物質で巣のアリの臭いを真似して偽装、かつ女王アリが餌を催促するときの音まで真似して、給餌を促す。さらにはアリに与える蜜にはアリが夢中になるような成分が入っているというような念の入れよう。人の家に乗り込んで、家族になりすますとともに悪いオクスリでいうことを聞かせて奴隷のように奉仕させる。シジミ・・・恐ろしい子!

 とまあ、アリとその社会には、いろんな生き物が関係していて、侵略的外来アリにより在来のアリが駆逐されると、それらの「関係者」が困っちまう可能性がでてくる。
 その場合、既に海外で報告があるアリマキ類をヒアリが保護することによる農業被害なんていう直接的な物から、駆逐された在来アリとそのアリに特化して関係を結んでいた種がいなくなることによる遺伝的資源の多様性喪失ということも起こってくるだろう。
 アリの巣に寄生している生き物の1種や2種消えたぐらいでなにも困らないだろうというのは、ある程度そのとおりだけど、今後利用できるかもしれない遺伝的資源の永遠の喪失というのは、避けられるなら避けておいた方がよいのは当然だろう。
 アリの巣じゃなく恐縮だけど、ハチの巣に寄生するハチノスツヅリガの仲間が「ポリ袋を食べる」という衝撃の報告が最近あったばかりである。プラスチック類ってゴミとして環境中にあふれまくっているけど、なかなか分解されなくて困りものである。環境中の残存量が予想より少ないので海の底のバクテリアとかが食ってるんじゃないかという推定は耳にしていたけど、まさか釣り餌としてお馴染みの「バイオちゃん」の類にそういう能力があったとは驚きである。まあプラスチックゴミでバイオちゃんたくさん養殖してゴミ問題解決というわけにはいかないようだけど、プラスチック類を効率的に分解している消化酵素とかが見つかれば、ゴミ処理に応用していけるのかもしれない。
 大腸菌に遺伝子組み替えでプラスチック消化酵素を生産させてたら、研究室からその大腸菌が流出。町をいく女性の化繊の服とかが分解されて「まいっちんぐ」とかちょっと落ちとしては見てみたい。
 そんなまいっちんぐな未来に役立つような可能性を秘めた生き物がアリの巣の中にもいるかもしれないのである。
 まあ、そういう損得勘定抜きにしても、シジミチョウとか足下チョロチョロ飛んでくれなくなったら寂しいじゃん。

 失われてしまうことの心配の逆に、侵略的外来アリを駆除したり生息数のコントロールをするための手段となりうる「好蟻性生物」に注目するということもありかなという感じで、実際にアメリカでは通称ゾンビバエと呼ばれるノミバエの一種をヒアリ対策で導入しているとか先日のNHKの番組でもやってた。まあ、捕食者や寄生虫は対象を全滅させると自分も生きていけないので通常は駆逐するまではいかないのだが、数量コントロールには役立つだろうし、人間が積極的に生産して大量に放つなどすれば生物農薬として機能するかもしれない。

 まだ、ヒアリは国内定着していないし、今なら間に合うかもしれないので、防除しっかりよろしくねと思っていたら、専門家たちはこれまでアルゼンチンアリでかなり侵略的外来アリに対抗する方法を磨いてきたようだ。
 防除が進むにつれて狭まっていく等の、働きアリの行動圏の変化に合わせてベイト剤を設置する防除エリアなどを見直して、防除済みのエリアでは在来アリを定着させていく「順応的防除」で、在来アリと人間の薬剤投与との協働により、なんと、数年以内でアルゼンチンアリの地域個体群を根絶。という実績をひっさげて、既に侵入しているアルゼンチンアリを他の地域でも根絶をめざし、ヒアリの防除を進めるゼ。という心強い感じになっている。

 この手の問題って、防除できたら問題が生じないので注目されずに誉められない。防除できなかったら問題が生じて無責任な非難にさらされるという、実に理不尽に難しい仕事である。
 でも、専門家たちはマスコミがアホみたいに騒ぐずっと前から、やるべきことを着々とやってきたようなのである。

 勝負は時の運もあり、下駄を履くまでわからない。っていうか半永久的に防除し続けなければならず、いつになったら下駄を履いて良いのかどうかも定かではない。でも、ヒアリシャットアウトは期待していいのかも知れない。
 もし、そうならずに河原に釣りに行ったときにヒアリに刺されるようになったとしても、それは世界中からモノを買ってきて豊かな暮らしをしている自分たちが自ら呼び寄せた災いであり、おとなしく刺されておこうと思うのである。
 無責任に専門家を批判するような愚かな人間にだけはならないようにしよう。

2 件のコメント:

  1. アリシリーズ楽しく読ませてもらってます。
    なんか釣り関係の話題以上に文章からパワーを感じますね~。

    >>大腸菌に遺伝子組み替えでプラスチック消化酵素を生産させてたら、研究室からその大腸菌が流出。町をいく女性の化繊の服とかが分解されて「まいっちんぐ」とかちょっと落ちとしては見てみたい。

    このネタ……「フルメタル・パニック? ふもっふ」 の12話(最終話)が面白いですよ。

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  2. nori shioさん おはようございます

     こんなマニアックなことをネチネチネチネチ書いて読んでくれる人おるんかいナ?と不安を感じつつも、楽しかったので止められずに書いてたので、楽しんでいただけたなら嬉しいかぎりです。

     そいうえば「ふもっふ」とネタかぶってますね。潜在意識下でパクったのかも知れません。
     フルメタ大好きです。ヒロインの好物が「オハイオ屋のトライデント焼き」だと知ってて、かつ元ネタが米軍のオハイオ級原潜に搭載されるトライデントミサイルだと知ってるぐらいには。
     フルメタ、秋に久しぶりのアニメ化で喜んでたら始まる前から万策尽きてるのか春に延期だそうで、ちょっと残念ですが待ち遠しいです。

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