2017年9月9日土曜日

アニメで学ぶ民主主義と多様性

 「多数決で物事が進められて、それが誰かの犠牲の上に成り立つものだったら、それはもう町おこしじゃありません!ただの開発です。だから押しつけではなく商店街の存続のためにひとりひとり何ができるのか、それをみんなで考えませんか?」
 こういっちゃなんだけど、かわいらしいオネエチャン5人組が活躍する深夜アニメのヒロインごときに、自分の積年の思いを、素晴らしく的を射た台詞で射抜かれて、オジサンちょっと感動で目頭熱くなっちゃったよ。

 以前にも書いたけど、私は多数決が嫌いだ。だって俺ってだいたい少数派になっちゃうんだもん。イヤになっちゃう。
 だから、前回そのあたりをグチったときには、選挙とかの多数決が、今の大きく複雑になった社会の中ではほかにあまり選択肢のない方法なのかもしれないけど、昔の日本には合意に達するまで、とことん集落内で話し合うなんていうのもあったんだよ。最後多数決にするにしても合意に達するまでの議論が大事なんだよ、てな説教クセえことを偉そうにいけしゃあしゃあと書いてしまった。

 そういう古きよき時代の民主主義が、実は少子高齢化、人口の都市集中とかで、過疎ってしまっている地方では今現在でも実はできるんじゃないかと、「住民が主役」とかいう極めて嘘くせぇ政治家の考えた安っぽいスローガンが、実は都会じゃ複雑になって時代が変わったなかでも、変わらず良くも悪くも「村社会」な地方では、やりゃできるんじゃねえの?とアニメ観てて蒙を啓かれる思いがしたのである。
 まあ現実は厳しくて物語の中のように都合よくはいかないとしてもだ。

 アニメの名は「サクラクエスト」。春から始まっていま2クール目で終劇に向かって俄然おもしろくなってきたところ。
 舞台はとある地方都市、観光協会の企画「チュパカブラ王国」の国王に就任した主人公と4人の大臣が町おこしのために奮闘する。という割と硬派な社会問題を題材とした「お仕事アニメ」。
 とはいえ、日本の深夜アニメの「とりあえず女の子はいっぱい出す」という伝統様式にのっとり、主人公たち5人は就活うまくいってなかったり、夢をあきらめかけてたり、ネット弁慶だったり、天然だったり、不思議ちゃんだったりそれぞれ一癖ある若い女性で、パッと見華やかで萌え萌えとした作品でもある。
 でも、ある程度物語に現実味を持たせるとなると、「町おこし」って、そんな簡単なら日本全国津津うらうら誰も苦労してないってぐらいで、序盤はなんか町の人ともうまくいかなくて失敗も多くモヤモヤとした感じで正直あまり面白くなかった。前半戦最後の山場の野外フェスに連動したイベントも、客観的には「上出来」という結果に終わるも、当事者たちには苦い思いを残す結末で、同じ「P.A.ワークス」制作の「お仕事アニメ」の金字塔「シロバコ」が前半山場、最終回のどちらも観てる人間ですら達成感と解放感を感じるような脚本だったのと比べて今一かと感じていた。
 まったくもってそんなことはなかった、後半、辛酸くぐって成長した主人公たちが、こつこつ築いてきた信頼関係を、地道にあれこれ失敗しながらもめげずに企画してきた取り組みを布石に、胸のすく活躍を見せ始め前半で切らずに視聴を続けてよかったと快哉を叫ぶ面白さ。

 冒頭の台詞は、町を出て成功を収めた洋菓子チェーンの経営者から、リスクは承知の上で故郷に店を出して恩返しをしたいという申し出を受けて、いわゆる「シャッター通り」と化しつつある商店街で、借りる店舗を探すなか、閉めてる店舗が多いから家賃収入が得られる渡りに船の話で簡単だろうと思っていたら、地方の商店街の店って店舗の2階が自宅になっているので、老後の生活に困ってもいないこともあり誰も貸したがらないという、たぶん現実にもあるんだろう問題に直面して、商店会の緊急会合に国王も同席したときのものである。
 会合で皆は、洋菓子店の出店は好機ととらえるも、実際に店を貸すのは渋りぎくしゃくとしたイヤな雰囲気に。
 つきあいの永い町の中なので、店と別の場所に家を建てて隠居している人物に対し皆が、直接、間接に「なぜお前が貸さない、町のためになるだろう」と重圧をかける。
 その中でのヒロインが国王として意見を求められての台詞。
 ヒロインの台詞を受けて、一人貸したくなくなる事情を知らされていた商店会会長が腹を決めてその話をする。
 皆その話で「それは仕方ない」と納得して、洋菓子店出店はあきらめるか、となりかけたけど「そういう事情なら仕方ない、自分が貸したくない理由なんてどうでもいいようなことだ」と一人が申し出て物語は大円団に向かうのである。
 一定の信頼関係の元に、皆で集まってあーでもないこうでもないと議論しつくして、皆が納得して物事が進む。実に美しいやり方だと思う。
 多数決で決めるのは効率的で合理的なのかもしれない、でも時間をかけて議論を深めるのは絶対無駄じゃない。たとえ結論を得られなくて最終的には多数決に頼るにしてもだ。と思う。
 ヒロインが意見を求められたときに、とにかく数の力をもってして、渋る人間を従わせるようにし向けることもできたように思う。「村社会」の怖いところで、同調圧力をかけまくって「村八分」的な制裁をちらつかせて承諾させてしまうことは、現実世界でも同じような場面ではあり得るように思う。
 それでも、結果は「町に洋菓子店が出店する」ということのみをみれば同じかもしれない、でもそのために誰かの気持ちを犠牲にするなんて美しくないし、わだかまりも残るだろう。議論に時間がかかってもみんな納得していったほうが美しく幸せだと思う。
 前回ボヤいたときに、良いリーダーに従うってのも、民主主義じゃないかもだけど、ありなんじゃないのか?とも書いた。
 国王の台詞もだけど、商店会会長の臨時会議を開いたり、黙っておいてほしいと言われていただろう約束を反故にして事情を説明したりした、タイミングの見極めというか政治的判断もなるほどなと思わされる感じで、やっぱり良いリーダーは重要だなと思ったり、深夜アニメみていろいろ考えさせられた。

 生きていく上での主義主張や哲学について、表現者が世に問う。なんていうのは、古くから文学が担ってきた役割で、戦時の国威発揚なんてのに見られるように近代では映画なんかもそういう役割も持った媒体として機能してきた。
 今の日本では、アニメ観て育ってアニメを作る技術がある表現者がいて、当然のごとくアニメでそういう硬派な題材に挑戦する場合もあるということなんかをご紹介しておきたく、サイトの方の「アニメ・映画など日記」の出張版でお届けしております。

 とはいえ、深夜アニメがそんな挑戦的・実験的なものばかりというわけでは全くなくて、くそバカバカしいネタアニメやら「また主人公が異世界に転生するのかよ!」というマンネリ定型的な作品もごまんとある。まあ異世界転生ものの「ナイツアンドマジック」とか観てるし面白いけど。
 今放送している深夜アニメだけでだいたい毎週10本以上観ている。テレビで毎週放送しているアニメは新作だけでたぶん50~60本あるといわれていて、どっかの大学にアニメを専攻する研究室ができて、そこの先生が担当する講義に出席するには最低週20本は視聴するようにとのことである。私ぐらいのニワカオタク程度では「アニメ学」落第するようである。
 ってぐらいに、いろんなアニメがたくさん作られてて、劇場公開アニメや最近ではネット配信のみ、なんてのも出てきて、ありとあらゆるジャンルや作風のアニメが作られている。
 ネット配信アニメってどんなもんかいな?と「ガンダムサンダーボルト」というのを観てみたら、なるほどこれは地上波じゃちょっと無理、という感じの「R指定」な感じのグロい描写があって、パイロットの四肢切断して切断面から直結した神経やら筋肉で直接モビルスーツを操縦するというのとか、昔の名作横スクロールシューティングゲーム「Rタイプ」の設定を思い出してウヘェとなったけど、でも面白かった。
 
 この玉石混交ありとあらゆる作品がある多様性こそが、とっても大事だというのは、たくさん作品を見ていると何となく感覚的に分かってくる。
 これだけ沢山作られてると、どうしようもなくお粗末な作品もあったりするし、ぜんぜん良さが分からん何をいいたいのか分からん作品もある。でもそういう作品を評価している人もいたり、逆にすごい自分の好みで面白いのにぜんぜん人気がない作品もあったりして、評価自体が完全に客観的なものなどなく、観る人の数だけ楽しみがあってしかるべきだと思えてくる。「クールジャパン」とかワケ分からんこといって、世界市場で戦えるように市場分析とかして戦略的にとか狙い始めると、たぶんハリウッド映画の2番煎じみたいなのとかディズニーアニメの劣化版みたいなのとかに成り下がるのが目に見える気がする。
 制作者たちがオノレの信念にもとづいて、面白いと思うものをとにかく作って世に問うというのが何度も繰り返されていく中で、結果としてヒットするものもあれば、誰かの心に響くものも作られるということだろうと信じる。

 日本のアニメは、ネット有料配信とかの重要性が増えてきて転換期にあるのかもしれないけれど、たった3000枚、コアなオタクにブルーレイ、DVDやらの円盤を売れば採算がとれるとかいうショボ目の小商いなビジネスモデルが成立していて、スポンサーの意向やら売り上げ至上主義的な重圧から比較的逃れられ挑戦が許されているという、いまだ健全なサブカルチャーの側面を残していると思う。思うんだけど、とはいえやっぱり商売として成り立たせるための大人の事情やら制約やらはあるようで、「日本の深夜アニメのとりあえず女の子はいっぱい出すという伝統様式」にのっとって作れというのは、企画を通したりスポンサーを説得したり、売り上げを伸ばしたりするのに直結してるようで、まあ最近は腐女子受け狙って男の子をいっぱいという作品もあるけど、基本深夜アニメには萌え萌えとした美少女が目立つのである。
 円盤買うぐらいの、アニメのパトロンたるコアなオタク層が総じて二次元美少女好きなのでいたしかたあるまいて。
 実写映画にアイドルが出るのと同じような大人の事情で、それでもそんな制約のある中でも面白い作品は面白いので「なんかアニメって意味もなく女の子が多くて気持ち悪い」と敬遠される貴兄のお気持ちは全くよく分かるのだが、その辺を「お約束」だと割り切ってとにかく沢山観ていると、美少女出てくるけど「萌え」だけじゃないという作品にも必ず出会えるし、だんだん慣れてくると、むしろ「萌えって結構重要なことだと思うのよね」という気持ちも湧いてくるというものである。
 脚本はよく練られてて上手いし、作画は流麗で美しいし、演出はスタイリッシュで格好いいし、その上美少女が可愛いとなったら、何を文句をいう必要があるかというものである。

 今期まさにそう思って視聴しいているのが、美少女スパイアクション「プリンセス・プリンシパル」。東西に分断された架空のロンドン舞台に、今作でも女の子5人が活躍します。
 スパイものなら普通にオッサン出したらどうなの?というご意見もあろうかと思うが、そういう貴兄には「ACCA13区監察課」という作品をおすすめしておきつつ、何が良いかって語らせてもらうと、なんちゅうか「キノの旅」の黒星紅白先生のキャラクター原案によるちょっとボーイッシュでキリッとキュートな主人公のアンジェがハードボイルドで格好いいんである。
 「嘘つき」というのが重要なキーワードになっていて、亡命を希望した科学者を匿っている時に、科学者に「嘘をつくのはスパイだから?」と聞かれて、「本当のことは面白くないもの」と答えてたりするんだけど、科学者も嘘つきで実はスパイをあぶり出すための敵側の罠だと判明して銃で殺すことになる。
 アンジェは「殺すのか僕を?」と聞かれて、
 「いいえ」バンッ・・・「いいえ」バンッ「いいえ」バンッバンッ
 と、実に嘘つきでクールな仕事ぶりなんである。
 痺れる第1話のこのシーンで「アッこれは当たりかもしれん」と感じたんだけど、想定以上の当たりっぷりで後半第8話でびっくりする嘘が明らかにされると、いやはや脚本の上手さにメロメロお手上げ降参脱帽状態。
 内容確認するために第1話をもう一回観たら、もう、気づいてなかった伏線だらけでプリンセス最後の「嘘つき」のつぶやきにはそういう意味もあったのか!とか鳥肌もの。
 やばいぐらいに面白いのに、それほどにはネット上とか盛り上がってはなくて、まあサクラクエストの方はちょっと堅くて難しい題材なのでそれほど人気爆発はしない作品だと思うけど、プリンセス・プリンシパルはエンタメアニメとしての完成度高くて、人気爆発してくれなきゃ嘘だろと思うのだが、人様の評価と自分の評価とはまた違うものだと思い知るところである。

 深夜アニメは爛熟期を迎えていて、沢山作られてるけどつまらなくなったとかいう意見も目にするけど、そんなこたなくて面白い作品はいっぱい作られていると感じている。
 最近は放送時視聴し損なっても、ネットで一定期間見逃し配信とかしてたりして、話題になってきた作品でチェックし損なってるのがあってもDVD出るまで待たなくても最悪1話300円ぐらいの有料配信ですぐ視聴できる。
 紹介した作品とか興味を持っていただけたなら、ネットで検索して観ていただけるとうれしい。ハマれば膨大な「お楽しみ」の鉱脈が眠っていることに気づいていただけるだろう。
 今の日本に生きて、アニメ楽しまなっくてどうすんの?TV放送時に観るか録画しておけばタダでっせ、もったいない。ぐらいに常々思っている。
 タダで視聴できるのは誰のおかげかとつらつら考えると、円盤買ってる現代の王侯貴族である濃いオタク様たちのおかげであり、パトロンの嗜好にあわせて多少オタくせぇ萌え萌えとした作風になってるぐらいは至極まっとうなことであり、ありがたく拝見させていただくことが民草の喜びというものではないだろうかと思ったりするのであった。

2 件のコメント:

  1. おはようございます。
    まちおこし物は映画とかだと中途半端な観光PR映画だったり、地域の願望を映像の中だけで叶えてあげた的なものだったり、ワンパターンな失敗作しか見てないような気がするけど、これはなかなか興味深そうですね。

    アニメは放送エリアの関係もあって昔からそれほど観る機会がなく、ネットの無料配信でいくつか観て、余程はまったら過去作をレンタルで見る程度ですけど、これは覚えておいて借りてこないといけないなあ。

    さて、この連休は今年も夜行バスで石巻・南三陸です。
    行きはともかく、台風とすれ違う帰りはいったい何時間かかるやら。

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  2. 風雲児さん おはようございます

     興味持っていただけて嬉しいです。実写の邦画は「制約」メチャクチャあるようで、「シン・ゴジラ」の時に庵野監督は、エラいさんの「恋愛要素は入れろ」「主人公達のバックボーンを掘り下げろ」とかの要求に従った脚本にブチ切れて「降りる」とまで言って自分の撮りたいように進めてヒット飛ばしたそうです。
     この逸話で分かるのは、単館上映の実験作とか除くと興行収入何億円とかになる大商いになってしまった失敗の許されない邦画では過去の成功例に引っ張られてものすごい制約がかかってくるということと、そんな制約あったとしてもぶちこわして才能ある表現者はオノレの信念を貫いて実力で黙らせることができるんだから「制約を言い訳にするな」ということでしょう。
     とはいえここ最近の邦画のヒット作がアニメと特撮というどちらかというと映画の本流外れたところから出ているというお寒い状況見ると、制約ぶち破れるほどの才能はやっぱり特別で、実験・冒険が許される深夜のアニメは健全だなと改めて思います。
     シン・ゴジラ、実はまだ観てないんだけど、レンタル始まってるみたいだしなるべく早く観たいなと思っているところです。

     東北今年もよろしくお願いします。台風はまたイヤなコース通りそうですね。こればっかりはなんともしようがないですが、気をつけていってきてください。

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